Friday, April 20, 2018

目取真俊の世界(7)初期短編集の輝き


目取真俊『平和通りと名付けられた街を歩いて』(影書房、2003年)


「魚群記」

「雛」

「蜘蛛」

「平和通りと名付けられた街を歩いて」

「マーの見た空」


「琉球新報」に掲載された「魚群記」が1983年、「新沖縄文学」に掲載された「蜘蛛」が1987年。1960年生まれの目取真の20歳代の作品群である。

いずれも少年・青年期の体験や記憶を手がかりに、想像力を膨らませて描いた小説だ。沖縄戦や米軍基地問題など政治を素材とした作品が目立つ目取真だが、『群蝶の木』がそうであったように、身辺の出来事からはいりながら、その先にある未知の体験への期待と不安を存分に漂わせた心理劇の世界を作り出す。少年の目に焼き付いた美と醜のアンバランスな対比、優しさと過激な暴力が衝突する人間模様。鮮やかな忘れがたい光景と記憶の彼方に押しやりたい光景、美臭が腐臭に転化する瞬間、目配せの途端に反転する世界。沖縄北部の村や那覇で立ち昇る歴史と悲鳴と残響。

「平和通りと名付けられた街を歩いて」は、皇太子夫妻の来沖を控えた那覇の平和通り周辺での出来事をスラップスティック風に描き出す。抑圧する権力、権力を内面化せざるを得ない庶民、だが、内面化に抗して吹き出す民衆の乱舞と哄笑。少年の目を通して、そしてオバーの生き様を通して、天皇制に貫かれた日本と、天皇制に侵されはじめた沖縄の悲劇と喜劇を巧みに提示する。路地のそこかしこに、やんちゃな歴史と記憶がひしめき、ぶつかりあい、くすぐりあっている。後の目取真の沖縄政治文学を予告する記念碑的作品だ。