Monday, February 13, 2017

大江健三郎を読み直す(74)大江唯一のファンタジー・ノベル

大江健三郎『二百年の子供』(中公文庫、2006年[中央公論新社、2003年])
両親が不在の時期に故郷に滞在した3人の子どもたちがタイムマシン(シイの木のうろ)にのりこんで、過去に移動して故郷の伝説の人物メイスケさんに出会ったり、103年前のアメリカへ、あるいは100年後の日本を訪れる。大江自身の家族をモデルにし、3人の子どもも大江の子どもたちに相当する年齢と個性の持ち主である。
SFジュブナイルとして格別の特徴があるわけではない。タイムマシンものとしては、シイの木のうろをタイムマシンに、というのはそれなりのアイデアかもしれない。木のうろの話は大江自身の少年時代の体験として何度も語られてきたことでもある。SFであることに意味があるということではなく、子どもたちがそれぞれの時代、それぞれの場所で、悲しい出来事に出会い、苦難を乗り越え、勇気を奮い起こし、友情を確かめ合う、そのプロセスを提示することに意味がある。
本書の後に、大江は子ども向けのエッセイ集を2冊出している。全部で3冊というのはむしろ少ない印象だが。