Saturday, December 24, 2016

ヘイト・スピーチ研究文献(80)市川正人への反論

前田朗「憲法の基本原則とヘイト・スピーチ――市川正人論文に応えて」『部落解放』735号(2017年)
市川正人(立命館大学教授)の論文「表現の自由とヘイトスピーチ」『立命館法学』三六〇号(二〇一五年)は、筆者の見解に批判的なコメントを付している。市川は、表現の自由こそ大切であるから、例外的な場合を除いてヘイト・スピーチの刑事規制には憲法上の困難があり、仮にそれを乗り越えた場合でも政策論は別であるとして、ヘイト・スピーチ刑事規制に消極的である。

筆者からの応答は次の5点。第1に、被害認識が問われているのに、市川は論点を変えている。第2に、市川は被害が生じていないことを前提にして、被害発生の危険性の判断をするべきだという。しかし、すでに被害が起きている事件で、予見可能性を問う必要はない。第3に、市川は「国民の自己統治」を語るが、これは「日本国民主義」に過ぎない。第4に、ヘイト・スピーチは民主主義と両立しないのに、市川は民主主義の名においてヘイト・スピーチを擁護する。第5に、市川の言う「思想の自由」市場論には社会科学的根拠がなく、採用できない。