Wednesday, August 10, 2016

ヘイト・クライム禁止法(118)南アフリカ

8月9日、人種差別撤廃員会は南アフリカ報告書の審査を始めた。政府からは10人ほど。傍聴するNGOは40人くらいいた。うち明らかに白人(系)が10数人で、黒人はなぜか6~7人しかいなかった。インド系らしき人が2人ほど。ポスト・アパルトヘイトの民主化20年の状況が審議された。
南アフリカ政府が人種差別撤廃員会90会期に提出した報告書(CERD/C/ZAF/4-8. 15 April 2015)によると、人種に基づく憎悪の唱道の禁止は憲法第16条2項に基礎を有する。16条は表現の自由を保障するが、憲法は、人種、民族、ジェンダー、宗教に基づく唱道が実害の原因となる煽動に当たる場合、表現の自由の範囲から除外される。ある表現がヘイト・スピーチとなるためには2つの要素が必要である。人種などの理由に基づいて憎悪を唱道すること、及び実害の原因となる煽動がなされたことである。南アフリカの法制度は、徐々にヘイト・クライムとヘイト・スピーチを予防、闘い、処罰するようになってきた。
南アフリカはヘイト・スピーチ禁止法を作成してきた。同法は人種差別撤廃条約第4条に由来し、ヘイト・スピーチを規制すると同時に、開かれた民主的社会の基礎となる価値を認める。同法は人種、民族、ジェンダー、宗教に基づくヘイト・スピーチへの参加や促進を犯罪とする。
政府は、二〇〇一年のダーバン行動計画に従って、人種主義、人種差別の現代的諸形態を取り扱う政策を作成中である。
 二〇〇三年、南アフリカ人権委員会は、「自由戦線」事件について、「農民を殺せ、ボーア人を殺せ」という政治スローガンは憎悪の唱道であるとした。その人々が特定のコミュニティや人種に属しているがゆえに殺せと呼びかけることは、明らかに文脈が異なる場合以外は、憎悪の唱道である。ボーア人という言葉は明らかに南アフリカのアフリカーナーを指していると認められるので、このスローガンは人種又は民族に基づいた憎悪の唱道である。人権委員会によれば、憲法第16条2項の目的にとって実害とは、身体的害悪に限定されず、心理的感情的害悪も含まれる。2010年3月頃、ANC青年部長がデモの際にうたった歌をめぐって論争がなされ、人権委員会に訴えが寄せられた。高等裁判所は、アフリフォーラム等対マレマ事件において、憎悪と殺人を煽動するという理由で、その歌を公然と歌うことを禁止した。
南アフリカ人権裁判所対南アフリカ放送局事件において、放送局不服委員会は、ズールー人の歌の中でインド系住民について侮蔑し煽動する歌詞は人種に基づく憎悪の唱道であると主張した。その歌はズールー人とインド人を対立させ、インド人を貶め、ズールー人の貧困の原因はインド人であるとし、インド人は白人よりも悪質だというものである。裁判所は表現の自由を支持するので、歌が実害の原因となる煽動に当たらなければ、ヘイト・スピーチでとは言えないとした。
タメシュ・ダラムシェ・ジェタラル対ユニバーサル音楽事件で、ダーバン高等裁判所は、インド人を貶める「アマンディヤ」という歌の出版、販売、配布を禁止した。この歌は3か月前から市場に出ており、インド人に対する黒人による暴力事件は起きていないが、申立人は、その歌が人種暴動の原因となるかもしれないとの恐れを抱いていた。その歌は、憲法第16条2項に言うように、黒人とインド人を対比する人種主義的なものであり、人種憎悪の唱道を目的とはしていないが、実害の原因となる煽動にあたる人種憎悪の唱道であると判断された。憎悪の唱道と実害を引き起こす煽動の両方が存在した。インド人に対する暴力事件は起きていなかったので、裁判所は禁止の範囲を限定した。