Wednesday, August 24, 2016

ヴィーゲラン美術館散歩

ヴィーゲラン美術館はヴィーゲラン公園の隣にある。もともとグスタフ・ヴィーゲランの自宅兼アトリエだったという。隣の建物はEUの旗とどこかの国旗を掲げているので、よく見たらギリシア大使館だった。
ヴィーゲランはノルウェーでは知らない人のない超有名彫刻家だそうだが、名前を聞いてもピンとこなかった。「おこりんぼう」――怒って泣いている子どもの立像を見て、ああこの作家だったか、と言う感じだ。「モノリッテン」の図版は見たことがあったが、大きさのイメージが全然違って、こんなに大きいとは思わなかった。
ヴィーゲラン公園はオスロ西部の住宅地にある広大な公園で、市民の憩いの場だが、オスロ市の依頼によってヴィーゲランがデザインし、そこにヴィーゲランの作品を設置した。その数、なんと212点。実物大の人間像が758体以上あり、特に「モノリッテン」には121体が彫り込まれている。日比谷公園に、ある彫刻家の作品が200点設置される――ありえないことで、想像もできない。のんびり歩いて、おおよそ見たが、まさにロダンの徒ヴィーゲラン、迷いがないというか、徹底しているというか、芸がないというか、ストレートに人間像あるのみ。公園の立像には、1929~43年までかかり、「モノリッテン」完成直後に、文字通り火が消えるように亡くなったようだ。
ヴィーゲラン美術館のほうは、公園に設置するための準備過程が明らかになるように展示されている。その他に、公園以外のヴィーゲラン作品(人間だけでなく、熊や鰐もいた)や、ヴィーゲランがデザインしたノーベル賞メダルの図案とモデルも。
他方、一部の部屋は、「ファゲロス展」だった。1975年生まれのホコン・アントン・ファゲロスという現在の彫刻家だ。イタリアのピエトラサンタという大理石の産地近くで制作しているが、他の彫刻家と違って、自分で大理石を切り出すという。「自分で石を切り出さないと、制作過程に他人の意思が介在することになってしまう」と言う。
自分で切り出した大理石や、ブロンズを使って、古典的な塑像。しかし、古典と断絶している点があって、神やヒーローではなく、普通の人々だけをつくり、日常性を表現する。眠っている3人の赤ちゃん。枕を引きずって歩く男性。少女像。ファゲロスには象徴主義も比喩もなく、淡々と表現する。彫刻には、見る者に語りかける特別のメッセージもない。強いてあげると、壊れやすさ、繊細さ。演劇的効果はなく、静けさを表現する。その特徴はとにかくきめ細かで、おだやかで、繊細で、とびっきりの美しさである。

ヴィーゲランの作品が大胆かつ剛直なのに対して、ファゲロスの作品は緻密で、やわらかで、壊れそうで、凛としている。可憐な少女像は信じがたい繊細さで、大理石と分かっていても、触ると壊れそうに思える。男性が引きずっている枕はじっくり見ても綿でできているとしか思えない。角度を変えて、光の反射で、ようやく確かに大理石だと、納得。天才というしかないだろう。