Sunday, August 14, 2016

ヘイト・クライム禁止法(120)ウクライナ

いくつかの論文で「世界の120か国以上にヘイト・スピーチ禁止法がある」と書いたところ、「前田のブログでは120ないじゃないか」という声が寄せられた。しかし、私の『ヘイト・スピーチ法研究序説』では120以上紹介している。これに対しても、「「ヘイト・スピーチ法の制定状況」には120か国もないじゃないか」との声が寄せられた。本は丁寧に読んでもらいたいものである。ラバト行動計画の紹介のところにも数十カ国の状況を示している。一目見ればわかることだ。本を一切読まずにでたらめな難癖をつけてくる人間が多いので困る。大いに控えめに言っても120以上である。ともあれ、今回でブログでも120になった。
8月11~12日、人種差別撤廃員会はウクライナ政府報告書の審査を行った。ウクライナ政府は10名ほど、NGOは意外に少なくて15人ほど。うち半分は常連さんなので、ウクライナの審査を聞くために来たNGOはほんの数人のようだ。ウクライナの政権交代を見れば、異常な排外主義と民族主義に熱狂した政権であったので、その後の人権状況が心配だった。他方、ロシアよるクリミア強制併合があったので、事態は深刻かつ複雑だ。
ウクライナ政府が人種差別撤廃委員会90会期に提出した報告書(CERD/C/UKR/22-23. 5 October 2015)を紹介する。煽動及び人種差別行為の根絶に関する法律には前回報告書(paragraphs 49-55 of CERD/C/UKR/19-21)以来変化がない(これについては『ヘイト・スピーチ法研究序説』参照)。政府は条約第4条に従って、人種的優越性の思想や人種憎悪を非難している。条約第4条(a)(b)に従って、人種的優越性の思想の流布を犯罪としている。
2008年の検事総長命令及び2011年の検事総長代理命令に従って、検事局は民族的国民的不寛容や排外主義の表現に関連して、訴追状況を評価検討してきた。この補油化の基礎は中央政府、検事局、クリミア自治政府の検事局、地方及びキエフ並びにセヴァストポルのデータである。
人種的民族的背景に基づく平等権侵害事件は単発的に起きている。刑事訴訟法及び2012年の刑事総長命令により予審段階捜査規定に従って、犯罪報告制度が統一された。
2010年、検事局が扱った刑法第161条の事件は6件であり、うち2件が裁判所に送られた。内務省が扱った事件は2件であった。
2011年、刑法第161条の事件は2件であり、いずれも裁判所に送られ、犯行者は有罪となった。内務省が扱った人種的民族的不寛容事件は3件であり、いずれも裁判所に送られた。
2012年、刑法第161条の事件は3件であった。
2012年4月3日、オデッサ検事局は「まっすぐな道」組織による「一神論に対する侵犯」というパンフレットが宗教的敵意と憎悪を煽動する内容であるとして、刑法第161条1項及び第263条1項で訴追した。
2012年6月20日、2人が刑法第161条1項及び第263条1項で訴追され、有罪となった。
2012年、内務省は人種的民族的不寛容による生命に対する犯罪を2件捜査し、関係者を訴追した。
2013年、検事局は、異なる人種的民族的背景を有する人への平等権侵害について予審段階捜査を行う決定をした。
2013年12月9日、ルヴィヴ検察局は刑法第161条1項の事件を1件扱った。本件は現在進行中である。
2013年9月25日、チェルニフツィ行政長官及び内務省が、取り扱った事案で、1人の公務員が責任があると判断された。
移住者や難民に対する排外主義の調査に基づいて、検事局は、2013年に45件の事案を扱い、うち23人の公務員を懲戒にした。10人は移住局に勤務していた。
2013年、内務省捜査班による予審段階捜査に付されたのは62件であり、うち44件は犯罪事実なしとして終結した。

2013年、裁判所は6件15人について、人種的民族的不寛容の事件の訴追を受理した。