Monday, March 07, 2016

ヘイト・クライム禁止法(104)スイス

スイス政府が人種差別撤廃委員会に提出した報告書(CERD/C/CHE/7-9.14 May 2013)によると、まず、人種差別撤廃条約第4条(a)に関して、人種的に動機づけられた行為は、刑法261条bis及び軍刑法171条(c)により犯罪とされている。連邦・反レイシズム委員会が、この刑罰規定の適用を監視している。刑法261条bisについえは、1995年以後の裁判所判決をインターネット上に公開している。警察犯罪統計は全カントンと都市を対象とし、2010年以後、公開されている。警察統計によると刑法261条bis事案は、2009年には230件の申し立てがあり、捜査を行い、159件が立件された。30件の有罪判決が言い渡され、執行された。2010年には、204件が申し立てられ、156件が立件された。2011年には、182件が申し立てられ128件が立件された。2010年以後の有罪判決数はまだ報告がない。申立の内、ほとんどが文書や口頭での人種主義発言である。電磁的方法での人種主義見解の流布も多い。連邦・反レイシズム委員会は、人種主義に関する文書システムを作り、2008年以来人種主義事件を報告している。事件の多くは、皮膚の色に関係する事案と、ムスリムに関係する事案である。反レイシズム財団、スイス連邦ユダヤ人コミュニティなども統計を発表している。
人種差別撤廃条約第4条(b)に関して、2005年、連邦委員会は、暴力と人種差別を説く過激運動を助長するシンボルを公然と使うことを処罰する法案を議会に提出した。しかし、法案審議に際して、処罰される行為と処罰されない行為の間の区別が不明確であること、人種主義のシンボルの定義が不明確であることに議論が集まり、議会は法案採択を控えた。人種主義シンボルが人種、民族、宗教に対して侮辱する目的などで使われた場合は処罰できる。2007年、スイス民主党は表現の自由を唱えて、法261条bisを廃止または弱体化させる法案を提出するための国民投票運動を行い、期日(2009年2月7日)までに8万の署名を集めたが、必要な10万に届かなかった。他方、議会は、2012年、人種差別と闘う法案の採択を否決した。
スイスは、人種差別撤廃条約第4条の適用を留保しているため、前回審査の結果、人種差別撤廃委員会は、留保の撤回を勧告していた。スイス政府は2012年の人権理事会普遍的定期審査の際に、キューバ政府から同様の勧告を受けて、政府見解を表明した。スイス政府はあ、現行刑法261条bisが個人も団体も対象としていると説明している。不法な目的を有する団体については民法第78条に従って、裁判官が解散を命じることができる。スイス政府の留保は、個人が人種差別団体に単に参加するだけなら処罰しないという範囲の留保である。スイス政府は表現の自由や結社の自由に照らして、スイス憲法第23条に照らして、この留保が正当であると考える。

スイスの状況については、私の『ヘイト・スピーチ法研究序説』第8章第5節で、2007年のCERD/C/CHE/6. 16 April 2007.を紹介した。ただ、そこでは関連条文の内容が紹介されていなかった。2007年報告では判決内容が紹介されていたが、2013年報告には判決内容の紹介がない。また、スイスの反差別法については、『部落解放』連載稿の中で紹介した。