Tuesday, March 22, 2016

アイヌ文化史の複雑性と多様性

瀬川拓郎『アイヌと縄文――もうひとつの日本の歴史』(ちくま新書)
第1章 アイヌの原郷―縄文時代(アイヌと縄文文化、アイヌと縄文人、アイヌと縄文語)
第2章 流動化する世界―続縄文時代(弥生・古墳時代)(弥生文化の北上と揺れ動く社会
古墳社会との交流、オホーツク人の侵入と王権の介入)
第3章 商品化する世界―擦文時代(奈良・平安時代)(本州からの移民、交易民としての成長、同化されるオホーツク人)
第4章 グローバル化する世界―ニブタニ時代(鎌倉時代以降)(多様化するアイヌの世界
チャシをめぐる日本と大陸、ミイラと儒教)
第5章 アイヌの縄文思想(なぜ中立地帯なのか?、なぜ聖域で獣を解体するのか)
日本史では、旧石器時代、縄文時代、弥生時代、古墳時代の軸区分が用いられ、これを基準として北海道の歴史を解釈していた時代があった。しかし、北海道には弥生時代や古墳時代は見られない。今では、北海道には続縄文時代、オホーツク文化、擦文時代、アイヌ文化(本書著者はニブタニ時代と呼ぶ)があるとされている。本州以南が縄文から弥生への道をたどったのに対して、北海道では縄文時代が変容しながらも続き、独自の発展を経て、今日のアイヌ民族が形成されてきた。
しかし、縄文人からアイヌ民族に至る過程で、彼らは世界から孤立していたわけではない。屋用時代の日本との接触もあり、交易もあった。北のニブヒ(ギリヤーク)の南下によるアホーツク文化との交流もあった。商品化する世界では、サッケ、オオワシ、アワビ、アシカなどの交易が盛んであった。経済、社会、家族、宗教など複雑な歴史がある。最新研究成果をもとにアイヌ民族形成に至るまでの古代・中世の世界を見せてくれる。

札幌に生まれ育ち、少年時代に教わったアイヌ史のイメージがすっかり様変わりしていることは知っていたし、これまでもいくつか読んできたが、本書でかなり整理がついた。