Saturday, November 28, 2015

大江健三郎を読み直す(52)恩師の業績を語ること

大江健三郎『日本現代のユマニスト渡辺一夫を読む』(岩波書店、1984年)
1983年4~5月に開催された岩波市民セミナーにおける6回の講演記録である。セミナーへの参加を希望したが、直前に電話したところ満席でダメとのことだった。一年後に本書が出版されたので、すぐに購読した。
恩師・渡辺一夫について大江はいたるところで語ってきたといってもよいが、渡辺一夫の研究業績についてまとめて語ったものは意外に多くない。本書で多くを語ったからだろうか。
1回目は戦前エッセイと「敗戦日記」、2回目は寛容論などのエッセイ、3回目はフランス・ルネサンス、4回目は『乱世の日記』『太平の日記』、5回目はガルガンチュワとパンタグリュエル、6回目はガグリエル・デストレ。大江は、渡辺の文体と方法論に焦点を当てながら、渡辺が生きた時代と大江が生きる時代を交差させる。取り上げられた渡辺の作品をあまり読んでいない読者にも、なんとかついていけるのは講演記録のおかげだろうか。
渡辺=寛容論をもとに論じる大江=寛容論は、テロと紛争が激化する現在、いかなる意味を有するだろうか。渡辺「死者たちへの手紙」を大江はいま同じように読むのだろうか。

恩師の研究業績について公的に語ったことのない私だが、いよいよ還暦を迎えるので、来年は恩師の研究業績を再読し、これについて論じようと考えている。恩師の研究業績を読み解き、語ることとはどのようなことなのか。そういった関心から、本書は参考になった。