Sunday, November 29, 2015

ヘイト・スピーチ研究文献(44)レイシズムの計量的分析

高史明『レイシズムを解剖する――在日コリアンへの偏見とインターネット』(勁草書房、2015年)
帯の推薦の言葉は「ネットが加速させるレイシズムトヘイトスピーチ。膨大なデータの分析から明らかになる、深刻な現実とかすかな希望。――岸政彦さん」である。
目次を見れば、議論の立て方が良くわかる。
1章 問題と目的
2章 Twitterにおける言説の分析
 21 研究1 コリアンについての言説:誰が、どのような投稿をしているのか?
 22 研究1補足 レイシズム関連ツイートをさらに分析する
 23 研究2 中国人についての言説を用いた比較
 24 研究3 日本人についての言説:意識されるコリアン
 25 第2章のまとめ
3章 質問紙調査によるレイシズムの解明
 31 研究4 レイシズムは2つに分けられるのか?
 32 研究5 2つの“レイシズム”は“2つのレイシズム”か?
 33 第3章のまとめ
4章 インターネットの使用とレイシズムの強化
 41 研究6 インターネットの使用と右翼傾向に関係はあるのか?
 42 研究7 インターネットの何がレイシズムに関わるのか?
 44 第4章のまとめ
5章 集団間接触によるレイシズムの低減
 51 研究8 友達、友達の友達の効果
6章 全体考察
 61 本書の構成と研究結果
 62 在日コリアンに対するレイシズムの解明
 63 本書の意義
 64 本書の限界と今後の可能性
著者は、朝鮮人差別に関する歴史的分析の重要性、特に権利獲得運動の重要性をよくわきまえたうえで、それとはまったく異なるレイシズム分析を提示する。アメリカにおける黒人へのレイシズムの分析枠組みとして提唱された現代的レイシズムの概念を援用し、古典的レイシズムとの区別を踏まえて、レイシズム全体の現象を把握しようとする。
インターネットにおけるレイシズムについて、計量的な分析により、マスコミに対する不信感や、それに代わるインフォーマルなメディアへの傾倒を再確認する。ソーシャル・メディア上での言説の特徴を定量的に示し、過去における言説の文献研究との比較、ないし接合という次の課題にも言及する。
これまでのレイシズム研究とは異なる視点、方法、分析の呈示は魅力的である。古典的レイシズムと現代的レイシズムの異同、その歴史的由来の確認、両者の間の関係など、まだ十分に明らかとは言えないが、今後の研究を期待したい。

著者はコ・サミョンではなく「たか・ふみあき」という名である。「名前がコリアンであることを推測させるものであったために子どもの頃に繰り返し投げかけられた差別的な言葉」ゆえに、在日コリアンをめぐる問題に関心をもち、このような研究者になったと言う。