Friday, October 02, 2015

植民地支配を問う主体形成を

梶村秀樹『排外主義克服のための朝鮮史』(平凡社ラブラリー、2014年)
<戦後日本の朝鮮史研究のパイオニアであった梶村秀樹が、日本人が知るべき朝鮮近現代史を平明に情熱的に説いた3回の連続講演の記録。
1971年の2回の講演、1976年の1回の講演の記録であるが、いま読んでも学ぶべきことが多い。小さい本だが、歴史認識の方法論を反省する著作のため、読むのに時間がかかった。「朝鮮史の主人公としての朝鮮人民」という視座の正当性と限界は当時も今も明らかであるのかもしれないが、植民地支配を行った側の日本人の意識や方法論は常に日本人中心主義であり、植民地主義であり、植民地主義の開き直りであった。そこから抜け出そうとしていたはずの歴史学者にも、必ずしも自明のことではなかったようだ。かつての植民地支配の歴史を前に、日本人(研究者)がいかなる立ち位置で、いかなる方法論で、朝鮮史にいどむのか。歴史修正主義が跋扈して以来の日本歴史学が直面している課題でもあるだろう。

事柄は歴史学だけに関わるわけではない。現在の朝鮮人に対するヘイト・クライム/ヘイト・スピーチについて論じる多くの憲法学者の手つきは、まさに植民地主義の開き直りであって、加害者性を脱色してしまう。多数者である日本人の表現の自由を根拠に、いかなる差別をも自由としてしまう帰結を、実にあっさり無頓着に提示する。日本国憲法が掲げた基本的価値を無視して、差別とヘイトに開き直る憲法学である。
山本興正による「解説」は、1980年代以後の論争を通じて、梶村の問題提起とは逆に、「『脱政治性』『第三者性』を求める主体の緊張なき朝鮮史研究」が幅を利かせることになり、在日特権、ヘイトスピーチ、歴史修正主義、朝鮮人の民族教育への弾圧が起きていることを指摘している。いま、本書が読まれなければならない理由である。