Monday, August 17, 2015

刑事訴訟法理論の探求(5)新しい捜査手法の問題性

内藤大海「犯罪対策と新しい捜査手法」川﨑・白取編『刑事訴訟法理論の探求』(日本評論社)
法制審議会・新時代の刑事司法制度特別部会答申への批判は既に多くなされてきたが、内藤論文は、「捜査手法の高度化」がもつ令状主義の掘り崩しに着目し、PC等の差押えに関する新たな処分として、①リモートアクセス、②記録命令付差押え、③代替的執行方法、④還付に相当する措置と保護されるべき利益、について検討する。
  刑事訴訟法99条2項、218条2項はPC等の差押えに際に他のPC等へのリモート・アクセス措置を規定する。憲法35条の令状主義に照らして処分範囲の拡大に問題はないか。リモート・アクセスは「バーチャルな捜索・差押え」に該当すると考えるならば、捜索場所、対象物の特定等令状主義の精神が及ぶはずであると言う。
  刑事訴訟法99条の2、218条1項により、捜査機関は、プロバイダ等に管理委託された情報の提出を命令することができる。しかし、当該情報は管理委託されているのであって、通常他人の手に渡ることがないという意味でのプライバシーの期待度は高い。不利益を受ける利用者に対する令状の呈示や、速やかな告知が求められる。
  刑事訴訟法110条の2は、代替的執行方法を規定する。それでは本来的執行方法と代替的執行方法のいずれを選択するべきか。法は何も規定していないが比例原則の観点から、できるだけ代替的執行方法を用いるべきであるという。
  刑事訴訟法123条3項は、捜査機関が持参した媒体に、情報の「移転」が行われた場合で必要以上の処分があった時、被処分者に対して当該記録媒体の交付または情報の複写を許さなければならないとする。令状主義の趣旨が、国家権力に対するプライバシー保護のための限界設定と言う点にあると考えるならば、利用可能性の回復にとどまらず、甲府・複写・消去などの選択肢を残す必要があり、法123条3項は立法として不十分であるという。

 以上に続いて、著者は、情報の集約に基づく総合的監視についても言及し、最後に、「法は、処分対象の個別化・限定化という点で課題を残した」とし、「総合的監視の問題性とともに、取得された情報の利用に対する規制のあり方についてもさらなる検討の必要がある」と述べる。