Monday, August 17, 2015

刑事訴訟法理論の探求(4)別件逮捕・勾留について

京明「別件逮捕・勾留――実体喪失説の有力化と本件基準説の課題」川﨑・白取編『刑事訴訟法理論の探求』(日本評論社)
別件逮捕・勾留について、かつての本件基準説と別件基準説の争いがあったが、最近は実体喪失説が学説において有力化してきた。実務には受け入れられていないようでもあるが、実体喪失説に立脚したとみられる判決も登場している。著者は、実体喪失説の意義を確認し、それが本件基準説にとってどのような理論的影響を与えるのかと問い、実体喪失説を形成・リードしてきた川出敏裕説を中心にその意義を概観し、客観主義的な思考枠組みを確認する。
実体喪失説は、捜査機関の主観的な意図や目的によってではなく、実際に行った取調べの内容、時間、別件と本件の関連性などを考慮して判断する。事後的・客観的な判断枠組みを提供する点で実体喪失説には一定の魅力がある。しかし、捜査機関の側から議論を立てていることに変わりはない。このため、事前抑制ではなく、事後抑制が中心となる。つまり、人権侵害がなされている、まさにその時には役に立たない議論だ。というよりも、役に立たせないための議論を目指していると言ってもよいのではないだろうか。
著者は、取調べの録音・録画問題や、近時の現行犯逮捕による別件逮捕に関する新しい判例を基に、実体喪失説の修正が余儀なくされることも指摘する。

実体喪失説と本件基準説を、松尾浩也が述べた「一括方式と個別方式」の対比に即して考察している点は面白い。目の前の具体的問題を一つ一つ解決することを目指すか、抜本的解決を目指すかの違いだ。もっとも、両者を静的に把握しているように見える。両者は単に並立しているのではなく、松尾説も、実際には抜本的解決を阻止するために提示された理論であって、その射程をどう見るかはなかなか難しい。いずれにせよ実体喪失説が提起した論点を受け止めて、今後の本件基準説の在り方を問い直すことは重要である。