Sunday, April 12, 2015

我が星は上総の空をうろつくか――一茶の生涯

12日は新宿・紀伊國屋ホールでこまつ座のお芝居『小林一茶』(作;井上ひさし、演出:鵜山仁)。役者は和田正人、石井一孝、久保酎吉、荘田由紀、石田圭祐ら12名。
時は文化7(1810)年11月8日の夜、場所は江戸蔵前元鳥越町自身番。当時、江戸の3大俳人の一人とされた夏目成美の別宅から480両の大金が盗まれた。10両盗めば死罪という時代の480両。疑われたのは貧乏俳人の小林一茶。見回り同心見習・五十嵐俊介は、事件の真相を暴くためのお吟味芝居を考案し、劇中劇で一茶の正体に迫る。信州柏原から江戸に出た少年・弥太郎が底辺の下層労働を生き抜き、俳句の世界で身を立てていく様を、一茶と竹里の友情と反発と闘いを通じて描く。女よりも俳諧を選んだ一茶と、俳諧に未練を残しつつ女を選んだ竹里。2人に人生が何度も交錯し、ぶつかりあい、クライマックスの見回り同心見習いの台詞「一人で立つんだ」により、一気に舞台は緊張に包まれ、静かに燃え上がる。俳諧、連句から、発句575のみで成り立つ俳句への進展は、ここから始まる。芭蕉や蕪村を継承しつつ、発展させる一茶の発句は同時に庶民の喜びや悲しみや願いを代弁する。
見回り同心見習・五十嵐俊介と小林一茶は、和田正人の一人二役である。つまり、井上ひさしは、一茶の無実を見抜き一茶を助けようとした五十嵐俊介に竹里に向かって「一人で立つんだ」と叫ばせるが、それは一茶自身の叫びでもあった。

いつもの言葉遊び、俳句を道具立てにした会話の進行、そして劇中歌のシーンでの場面転換。ふんだんに盛り込んだ遊びの果てに、一茶の生き様と、一茶の俳句の世界を見事に描き出したお芝居であった。演出の鵜山仁と、12人の役者たち、そして舞台を支えたスタッフたちに感謝。