Saturday, August 30, 2014

吉野作造のたたかいに学ぶ


こまつ座公演『兄おとうと』(紀伊國屋サザンシアター、原作・井上ひさし、演出・鵜山仁)を観劇。大正デモクラシーの吉野作造と、おとうとの吉野信次の、信頼と衝突、兄弟愛と葛藤を、時代状況の中に位置づけて描いた秀作だ。5年前に上演されたようだが、知らずに観なかったのは不覚。役者は6人。作造とその妻、信次とその妻、この4人は一貫しているが、残りが大変だ。作造の友人と警察官と右翼と説教強盗と会社経営者を、小嶋直樹が演じる。吉野家の家政婦と市川の貧しい女性と渡日した中国人女性と女説教強盗と娼家の女主人を中村裕子が演じる。主役4人の演技も見事だが、脇役2人の1人5役が素晴らしい。そして、しっとり、しめやか、軽やかに響く朴勝哲のピアノ。
デモクラシーを日本に広めようとするリベラル政治学者・作造の理論は、明治憲法や明治の現実を批判せざるを得ない。天皇の官吏となったおとうととはことごとく対立する。大正デモクラシーは一世を風靡するが、他方で、作造は国士から「非国民」として命を狙われる。昭和に入ると、日本は戦争への道を転がり始める。デモクラシの危機に直面した作造の文筆のたたかいは続く。そして――という筋立てだが、井上ひさしらしい、歌と踊りと、ギャグとユーモアに、大笑い、小笑いの連続だ。

憲法と民主政治をめぐる作造、関東大震災後の復興に力を注ぐ作造、戦争に向けてひた走る現実政治を批判する作造――それは歴史の追跡ではなく、現在を照らし出す話だ。井上ひさしの作品群では、文学者を扱った「評伝シリーズ」とは区別されているものの、同じ系列に入れてもいいのかもしれない。