Sunday, July 13, 2014

差別団体に公共施設を利用させてよいか(6)

六 おわりに――条例の意義と射程                                              
 山形県と門真市では該当条例の内容が異なるが、いずれも日本国憲法第一三条、第一四条及び人種差別撤廃条約の趣旨に合致した正当な判断をしたものと考えられる。                       
 地方自治体が差別集団(ヘイト集団)に公共施設を利用させてはならないことを、より明確にするために条例の見直しが必要な場合もあるであろう。                               
鳥取県人権侵害救済推進及び手続に関する条例は「この条例は、人権の侵害により発生し、又は発生するおそれのある被害の適正かつ迅速な救済又はその実効的な予防に関する措置を講ずることにより、人権が尊重される社会の実現に寄与することを目的とする」(第一条)とし、「人権侵害の禁止」(第三条)について「(6)身体の安全又は生活の平穏が害される不安を覚えさせるような方法により行われる著しく粗野又は乱暴な言動を反復する行為、(7)人種等の共通の属性を有する不特定多数の者に対して当該属性を理由として不当な差別的取扱いをすることを助長し、又は誘発する目的で、当該不特定多数の者が当該属性を有することを容易に識別することを可能とする情報を公然と摘示する行為、(8)人種等の共通の属性を有する不特定多数の者に対して当該属性を理由として不当な差別的取扱いをする意思を公然と表示する行為」を例示している。これは救済手続きの定めであるが、公共施設をヘイト団体に貸すか否かの判断基準としても有用であろう。                                  
翻って大阪についてみると、「大阪府人権尊重の社会づくり条例」は「すべての人間が固有の尊厳を有し、かつ、基本的人権を享有することは、人類普遍の原理であり、世界人権宣言及び日本国憲法の理念とするところである。かかる理念を社会において実現することは、私たちすべての願いであり、また責務でもある。しかしながら、この地球上においては、今日もなお、社会的身分、人種、民族、信条、性別、障害があること等に起因する人権侵害が存在しており、また、我が国においても人権に関する諸課題が存在している」(前文)として、「この条例は、人権尊重の社会づくりに関する府の責務を明らかにするとともに、府民の人権意識の高揚を図るための施策及び人権擁護に資する施策(以下「人権施策」という。)の推進の基本となる事項を定め、これに基づき人権施策を実施し、もってすべての人の人権が尊重される豊かな社会の実現を図ることを目的とする」(第一条)としている。大阪府条例の精神に照らしても、今回の門真市の施設利用拒否は極めて正当な措置であったと言えよう。                                       
ヘイト・スピーチの処罰と公共施設の利用問題は性格が異なる。日本政府が人種差別禁止法もヘイト・スピーチ法も否定しているため、ヘイト・スピーチが犯罪とされていないし、条例で犯罪化することも難しい。しかし、公共施設の利用問題は、ヘイト団体に対する不利益処分という以前に、政府が人種差別に加担することの可否の問題であるから、条例によって対処することが可能であるし、対処するべきである。適切な条例を有していない自治体では、差別に加担しないための条例制定が必要である。                     

在特会による過激で常軌を逸したヘイト・スピーチ、ヘイト・デモに対して、少なからぬ自治体が適切な対応を取ることができなかった。山形県や門真市の実例を参考に、早急に議論を深め、今後の実務に反映させる必要がある。