Saturday, April 19, 2014

社会の中の美術作品を読み解くために

池上英洋『西洋美術史入門<実践編>』(ちくまプリマー新書)                                                                     前著『西洋美術史入門』の続編として書かれた本書は、「世界が変わる、名画の見方」といういささか挑発的な宣伝文句とともに送り出された。冒頭いきなりローマのイエズス会の教会であるサンティニャーツィオ教会の天井画、アンドレア・ポッツォの<四大陸の寓意>(1691~94年)の読み方を具体的に展開してみせる。当時知られていた4つの大陸、ヨーロッパ、アフリカ、アメリカ、アジアがどのようなイメージで理解されて、どのように描かれているかを読み解く作業に続いて、著者はイエズス会による世界伝道の在り方、その特質を解説し、作品を見る視点を提供する。また、壮大なだまし絵となっているので、いどのいつに立っているかが問題となる。つまり絵画作品には、いつ、どこで、絵を見るかという問題がつきまとう。私のような無知で無頓着な鑑賞者はただぼんやり見上げて首が痛くなるのを待つだけだ。著者はさらに、サンティニャーツィオ教会の立体図や平面図を提示し、いかなる設計図のもとで、いかなる創意工夫でこれらがつくられたかの美術史的読解に転じる。そこでは制作動機や主題選択の内実が浮上する。制作時の時代状況を反映した作品の意味を、読者は呆然としながら教わることになる。次に著者は、美術作品の見方についての基礎情報を解説し、美術品と社会のかかわりを読み解くための方法論を順次、具体的に手ほどきする。話題はツタンカーメンであったり、キリスト像であったり、西欧におけるジャポニスム作品(ブーシェ、ホイッスラー、モネ、ゴッホ、クリムト)であったり、政治権力と美術品の関係(ナポレオンやナチス)であったりと、実に博学多才である。コンパクトな新書1冊で、美術作品の見方、読み方をさまざまに教えてくれる。                                                                                        池上英洋『神のごときミケランジェロ』(新潮社)                                                                                          http://maeda-akira.blogspot.jp/2013/08/blog-post_23.html                                                                                       池上英洋『ルネサンス 三巨匠の物語』(光文社新書)                                                                                                          http://maeda-akira.blogspot.jp/2013/11/blog-post_2.html