Monday, April 14, 2014

大江健三郎を読み直す(14)精神が荒廃した荒れ地で闘うために

大江健三郎『大江健三郎往復書簡集 暴力に逆らって書く』(朝日新聞社、2003年[朝日文庫、2006年])                                                                                                     繰り返し読まなければならない本だ。書店には次から次とおびただしい新刊本が並ぶ。本が売れない時代と言われながらも、大量の本が送り出され、消えていく。そうした中、繰り返し読むべき本、繰り返し読みたい本を見つけるのは大変だ。現代日本文学に限って言えば、大江や、大岡昇平、中野重治、大西巨人、小田実、井上ひさしをはじめ、繰り返し読みたい本となる著者が多数いるので、探すのに苦労はしない。大江作品のあれこれを繰り返し読むのも私には当然のことだが、その中でも、特に、という数冊がある。本書もその一つということになる。                                                                                                    1995年から2002年にかけて行われた往復書簡をまとめたものである。1994年に大江がノーベル賞を受賞した後に、ドイツのギュンター・グラスとの往復書簡が朝日新聞に掲載された。グラスはその後1999年にノーベル賞を受賞している。さらに朝日新聞が企画して、南アフリカのナディン・ゴーディマ(1991年ノーベル賞)、イスラエルのアモス・オズ、ペルーのマリオ・バルガス=リョサ(2010年ノーベル賞)、アメリカのスーザン・ソンタグ、アメリカの日本研究者テツオ・ナジタ、中国の鄭義、インドの経済学者アマルティア・セン、アメリカの言語学者ノーム・チョムスキー、パレスチナ系アメリカ人エドワード・サイード、アメリカの反核運動家ジョナサン・シェルとの往復書簡が続いた。                                                                                           世界文学の中の日本文学、そして日本文学の中の世界文学という問題意識から、世界文学がいかにして日本文学となりえるかと考える際の道標ともなるだろう。大江の歴史認識や社会意識と、グラスやオズやバルガス=リョサたちの問題意識が交錯し、交響する。大江だからこそ実現できた企画だが、同時に、とびきり優れた編集者・企画者、優れた翻訳家がそろって初めて可能な企画だ。随所に引用したくなる文章がちりばめられているが、ナディン・ゴーディマの書簡から一つだけ引用しておこう。                                                                                      「《想像力の鈍化》。おっしゃるとおりです。どんな才能に恵まれても、それによって重い責任を負わされるのが作家です。作家の仕事とはつきつめれば想像力を生き返らせることだと言えます。ナイジェリアの偉大な小説家チヌア・アチェベによれば、私たち作家の目のまわりには白亜の環が描かれているそうです。私たち自身には見えないものです。しかし、この白い環こそ、生を豊かにする想像力の大切さを知った創造的な精神のあかしだ、とアチェベは言います。もしも暴力が表現であるのなら、暴力に表現を求める人間の欲求に対して、別の表現を与えることができるはずです。暴力と作家という、相容れない二者のあいだには、悲惨なまでに精神が荒廃した荒れ地が横たわっているように思えます。しかしこの場こそ、私たち作家が暴力と相対する現場なのです。」