Monday, March 03, 2014

先住民族の権利から見た尖閣諸島

上村英明「尖閣諸島問題と先住民族の権利――先住民族の視点から領土問題を考える」『恵泉女学園大学紀要』26号(2014年)                                                                                            先住民族の権利研究の第一人者による最新できたての論文である。などと書くと、ご本人からは「研究だけやってるわけじゃない」と叱られるかもしれないが。                                                                                2007年の国連先住民族権利宣言から7年になる。日本政府がアイヌ民族を先住民族と認めたのは2008年のことだ。しかし、実際にはアイヌ民族の権利を認めていない。2010年の人種差別撤廃委員会では、上田秀明人権人道大使が「先住民族の定義はない」と言い放った。政府が先住民族権利宣言を認めて、アイヌ民族を先住民族と認めたにもかかわらず、外務省は国際舞台で、こういう勝手なことを言っていた。NGOは批判したが、マスコミは報じなかった。それから3年、昨年の拷問禁止委員会で「黙れ!」と暴言を吐いたのが同じ上田人権人道大使。ようやくクビになった。話を戻すと、先住民族の権利を認めたはずの日本政府だが、アイヌ民族の権利を認めない。また、琉球民族については、先住民族と認めていない。こういう状況なので、先住民族の権利とは何かをもっと周知しなくてはならない。先住民族の土地の権利や、文化の権利、同化を強制されない権利を広める必要がある。土地の権利との関係では、北海道や北方領土、沖縄や尖閣諸島、が検討対象だ。                                                                                                        著者は、かつて『先住民族の「近代史」――植民地主義を超えるために』(平凡社)を書いた。その先に国連宣言があり、そして本論文である。尖閣諸島を著者はどのように論じるのか。それはここには紹介しない。「さいごに」だけ引用しておこう。                                                                                                        「アジアには,欧米の帝国主義の影響で多くの植民地が形成されたが,日本のように,これを模倣しながら,国民国家形成を隠れ蓑に植民地を拡大した国家も少なくない。そして,その犠牲者として先住民族が存在し,その多くは今回紹介した領土問題とも大きく関わっている。こうした領土問題を含む,アジアの国家間の利害の調整には,正しい歴史認識がやはり不可欠であるが,その主体のひとつとして先住民族を含めることが重要だろう。領土問題に,その存在を忘れれば,私たちはかつての帝国主義諸国と同じ過ちを犯すことになるだろう。アジアでこそ,多様で多元的な市民社会が実現することを期待したい。」                                                                                            なお、下記のサイトには紀要がアップされているが、25号までで、26号の本論文はまだ出ていない。そのうち出るだろう。                                                                                                                  恵泉女学園大学紀要                                                                                                          http://ci.nii.ac.jp/vol_issue/nels/AA12120901_ja.html