Saturday, March 15, 2014

レイシストになる自由?(6)

エリック・ブライシュ『ヘイトスピーチ』(明石書店)                                                                                           本書「5 結社の自由と人種差別団体規制のジレンマ」では、一方で、表現の自由と並ぶ重要な権利としての結社の自由と、他方でヘイト・スピーチを繰り返す人種差別団体の規制をどう考えるべきかを検討している。民主主義を機能させるためには結社の自由が不可欠であるが、「危険すぎて民主主義が許容できない」団体をどうするのかである。テロリスト団体の規制は当然のこととされている。ここでも、「アメリカは、積極的にレイシストの自律性を擁護している」。ネオナチ政党もKKKも合法であり、公然と活動している。ヨーロッパでは、人種差別団体への規制が行われている。ブライシュは、アメリカ、ベルギー、ドイツの状況を詳しく紹介して検討している。規制の内容は、団体解散から、公的助成の禁止、あるいはメディア報道からの排除、さらには団体委員の公職禁止など多様である。 アメリカでは、ヘイト・スピーチ法規制がなく、ヘイト団体規制もなく、犯罪行為をしない限り、団体に対する国家介入はない。公民権運動が、団体規制をすると逆に自分たちが規制されることを恐れて、結社の自由を主張したためとされる。                                                                                                              ベルギーもかつてはアメリカと同様にレイシズム団体の規制には消極的だった。しかし、人種差別的な極右政党の登場により状況が変わり、2004年、最高裁は、人種差別政党を援助した団体への制裁を是認した。移民を攻撃するフラームス・ブロックという政党の活動が問題を引き起こしている。人種差別撤廃条約批准に伴って制定された1981年法律が実際に適用されるようになった。「フラームス・ブロックが人種差別を明確に、何度も、そして明白に扇動している」ことが決め手になった。今も議論が続いている。                                                                                                        ドイツはネオナチと闘う必要性から結社の自由を制限する法悪を積み重ねてきたことは、これまでも紹介されてきた。ブライシュによると、オランダ、フランス、オーストリア、スペイン、イタリア、ポルトガルで人種差別団体、ファシスト規制の努力が続いている。 ブライシュは、アメリカ、ベルギー、オランダの共通点と相違点を確認し、歴史的背景の違いから現状の差異がもたらされたことを分析している。                                                                                                                           日本では団体規制と言うと、すぐに治安維持法と破壊活動防止法を思い出すことになる。オウム真理教への破壊活動防止法適用問題で大騒ぎしたくらいである。現在では、団体規制に対する反発が非常に強く、今後も規制は困難と言ってよいであろう。京都朝鮮学校事件や新大久保ヘイトデモを見ても「表現の自由だ」と断定する憲法学者がいるので、おそらく結社の自由についても同じ議論になるであろう。                                                                                                                          実際、山形県生涯学習センターが在特会の施設利用を拒否した件で、メディアは結社の自由や思想信条の自由の問題として取り上げた。しかし、人種差別団体に公共施設を利用させることは、政府(国であれ地方自治体であれ)が人種差別団体に便宜を提供することであり、人種差別撤廃条約第2条に照らして許されない。今後、こうした議論が必要になって来るだろう。                                                                                                                              ヘイト・スピーチ集団に公共施設を利用させてはならない3つの理由                                                                       http://maeda-akira.blogspot.ch/2013/06/blog-post_6044.html