Thursday, February 06, 2014

ヘイト・クライム禁止法(50)ベルギー

2月6日午後、パレ・ウィルソンで開催された人種差別撤廃委員会CERDはベルギー政府報告書の審査を行った。ベルギー政府代表は16人いて、男5、女11で、しかも正面壇上に上がった3人は女ばかり。報告を担当したのは女性大使。傍聴したNGOは20名ほど。報告書は委員に高く評価されていたが、大使の報告は統計データの羅列にかなりの時間を要して稚拙だったため、かなりの委員がイヤーホーンを外して、他のことをやっていた。2007年の反人種差別法のことが報告書に出ていたが、条文は出ていない。報告でも、人種以外の各種差別に対応しているということに触れた程度。2013年には差別動機犯罪の刑罰加重を定めた新法が出来たようだが、詳細は不明。                                                                   ベルギー報告担当のヴァスケス委員(米)が多くの質問をしたが、サイバー・ヘイトへの対策、ベルギーが条約4条を留保していること、CERD一般的勧告35を活用すべきことを強調した。ダー委員(ブルキナファソ)、ディアコヌ委員(ルーマニア)も、人種差別対策では先進的なベルギーがなぜ4条を留保しているのか理解できない、実際にヘイト団体構成員処罰もしているのになぜ留保か、と繰り返していた。リングレン委員(ブラジル)も、ユダヤ人差別事件が増えているので、4条留保は撤回できないかと指摘していた。                                                                   ベルギー政府がCERD84会期に提出した報告書(CERD/C/BEL/16-19. 27 May 2013)によると、新しい反差別法ができたので、裁判所の判決で人種主義的動機に言及する例が出るようになったという。2007年10月12日、アントワープ刑事裁判所は、2006年に、できるだけ多くの外国人を殺す意思で、2歳の少女を射殺、トルコ人女性を殺人未遂の19歳の男性に終身刑を言い渡したが、刑罰加重事由として人種主義に言及した。2008年3月14日、ハイノー刑事裁判所は、黒人売春婦に火炎瓶を投げて殺人未遂となった3人の若者を、15~20年の刑事施設収容とした。                                                                       ヘイト団体と闘い、構成員を処罰するのはベルギーでは優先事項である。2011年3月9日、ヴュルヌ刑事裁判所は、ネオ・ナチ集会で有名な「血と名誉Vlaanderen」の3人に3月の刑事施設収容、うち2人は執行猶予付きを言い渡した。2012年2月10日、アントワープ刑事裁判所は、非ムスリムに対する憎悪と暴力の煽動で訴追されたラディカル・イスラム運動の「シャリア4ベルギー」のスポークスマンにつき、2年の刑事施設収容及び550ユーロの罰金を言い渡した。この団体はヨーロッパにシャリア法を広めようとしているもので、ベルギーでは有名であるという。以上の判決での適用法令が、報告書には記載されていない。                                                                               2006年5月16日、Vlaams Belangに対する政府交付金の割当てを撤回する申立が国家委員会に提出された。この政党は、多くのウェブサイトで基本的権利に対する敵意の表現をしていることで批判を集めていた。Vlaams Belangの申し立てにより、憲法裁判所が表現の自由、集会結社の自由との適合性について判断することになった。2009年12月3日、憲法裁判所は、法令はそれらの自由に反するように解釈されてはならないとし、「敵意」という概念は、現在の法律ルールを侵害することを煽動する表現だけを意味すると理解されるべきだとした。例えば、暴力行為を行うことの煽動、欧州人権条約の思想に反対することの煽動。結局、ある意見が人々に民主主義の本質的原則の一つを侵害するよう煽動するものか否かをめぐる問題は、その内容と文脈に従って考慮されなければならない。Vlaams Belangは、交付金を失っていない。                                                                                  今回のベルギー政府報告書では、関連する法令の条文が全く分からない。過去の報告書などチェックする必要。 *                                                                                         <追記>                                                          2月7日、ベルギー政府が回答した中で、条約4条について、委員から「なぜ留保しているのか」と質問があったが、ベルギー政府は「留保」ではなく「解釈宣言」をしている。この解釈宣言は、ベルギー政府が条約の義務を履行する妨げにはなっていない、と回答した。解釈宣言の中味はわからなかった。