Tuesday, July 23, 2013

国際メモリアル・デーとは何か

国際メモリアル・デーとは何か 戦争犯罪論ノート(48)/『Let’s』80号(2013年)                                                                                      一 はじめに                                                                                                                    二〇一二年一二月、台北で開催された第一一回アジア連帯会議で、八月一四日を「日本軍『慰安婦』メモリアル・デー」とすることが決まった。                                                                                                                      八月一四日は、一九九一年に、韓国の金学順さんが「慰安婦」被害者として初めて名乗り出た日である。                                                                                                                                          衆参両院における議員からの質問に対して、日本政府(当時の労働省職業安定局長)が「いわゆる従軍慰安婦につきましては、民間の業者がこれを連れまわしたもので、軍は関与いたしておりません」と、日本軍の関与を否定したという報道に接した金学順さんが、自分は日本軍に連れまわされた被害者であると告発した。この勇気ある告発がきっかけとなって、アジア各地の被害女性たちが半世紀の沈黙を破ることになった。                                                                                                                                             それ以前から、沖縄のペ・ポンギさんのことは知られていたし、韓国では尹貞玉(梨花女子大学名誉教授)が調査と報告を行っていたが、アジア各地の女性たちが立ちあがる最大のきっかけは、やはり金学順さんの勇気だった。                                                                                                                                            元になった国会質問は、朝鮮学校生徒に対するJR定期券差別問題であった。当時、JRは日本学校生徒にのみ通学定期券を発行し、朝鮮学校生徒にはこれを認めていなかった。私たちは平等の定期券発行を求めて、文部省、運輸省、JR東日本に要請行動をしたが、その一環として議員に国会質問をお願いした。本岡昭次議員と清水澄子議員がそれぞれ国会質問を行ったが、その際に取り上げたのは「戦前戦中に朝鮮人を強制連行し、酷使して鉄道工事を行ったにもかかわらず、その子孫である朝鮮学校生徒をいつまで差別するのか」という問題であった。そこで定期券差別問題だけではなく、朝鮮人強制連行問題、従軍慰安婦問題、南方方面派遣団問題を取り上げてもらった。                                                                                                                                                    この質問に対して、日本政府が関与を否定したのが右の答弁であり、報道でそれを知った金学順さんが名乗り出ることにつながった。                                                                                                                                                「慰安婦」被害女性の運動は、東アジアにおける問題だけではなく、世界各地における紛争下の女性に対する暴力の問題につながった。一九九三年五月のウィーン世界人権会議、同年一二月の国連「女性に対する暴力撤廃宣言」採択、一九九四年三月、国連人権委員会における「女性に対する暴力特別報告者」の創設とラディカ・クマラスワミ特別報告者の任命、そして一九九五年のクマラスワミ特別報告者の調査と、一九九六年のクマラスワミ「慰安婦」問題報告書へとつながった。まさに歴史を動かしたのが、金学順さんと、東アジア各国のサバイバー(被害女性たち)であった。                                                                                                                                                        そこで、第一一回アジア連帯会議の決定を受けて、さらに今年、日本で「八月一四日を国連メモリアル・デーにしよう」という運動が始まった。アジアだけの問題ではなく、武力紛争下における性暴力、とりわけ性奴隷制と闘うためのメモリアル・デーとするためのチャレンジである。                                                                                                                                 それでは国連メモリアル・デーとは何か。どのようなメモリアル・デーがあるのか。それはどうやって決まるのか。八月一四日を国連メモリアル・デーにするためにはどんなロビー活動が必要なのか。                                                                                                                                                                   二 国連メモリアル・デーの概要                                                                                                                                                    1 国連メモリアル・デーとは                                                                                                                                                   国連ウェブサイトで調べると、「国連の国際デー」という言葉で一年間のメモリアル・デーが掲げられている。国際デーとは何かという定義は見当たらなかった。一月二七日の国際ホロコースト犠牲者の記憶記念デーに始まり、一二月二〇日の国際人間連帯デーに至る年表が掲載され、一一五のメモリアル・デーがあることがわかる。                                                                                                                                                他方、ウィキペディアで調べると、ABC順で、Aの世界エイズ・デー(AIDS)から始まって、Yの国際青年デー(YOUTH)まで、七六のメモリアル・デーが掲載されている。                                                                                                                                                                   世界本デー、子どもデー、国際ダンス・デー、世界社会正義デー、国際民主主義デー、アース・デー、国際奴隷廃止デー、国際家族デー、国際移住者デー、世界ツーリズム・デー、国連デー、戦争犠牲者デー、世界水デー、世界子ども労働反対デー、世界交通事故犠牲者記憶デー、世界環境デー、国際人種差別撤廃デー、国際女性に対する暴力撤廃デー、世界食糧デー、人権デー、世界知的所有権デー、国際核実験反対デー、山デー、国際非暴力デー、国際平和デー、世界哲学デー、世界プレスの自由デー、世界難民デー、国際パレスチナ人民との連帯デー、国際拷問被害者支援デー、国際寛容デー、世界健康デー、世界人道デー、世界統計デーなど、実に多くのメモリアル・デーがある。                                                                                                                                                              2 主要なメモリアル・デー                                                                                                                                                                  (1)一月二七日 ホロコースト犠牲者の記憶記念デー                                                                                                                                                         一九四五年一月二七日、ナチス最大のアウシュヴィツ強制収容所がソ連軍によって解放された日をもとにしている。国連で承認されたのは比較的新しく、二〇〇五年のことであった。それ以前に一九九六年、ヘルツォーク・ドイツ連邦共和国大統領が提唱してドイツなどで記念式典が催され、二〇〇一年からはイギリスやイタリアなど各国に広がった。それを受けて、ナチス収容所解放六〇周年を機に、二〇〇五年一月二四日、国連総会決議が採択され、一月二七日が国連デーとなった。イニシアティヴをとったのは、シルヴァン・シャローム・イスラエル外相だった。決議は、ホロコーストの歴史教育の発展、ホロコーストの否定を拒否すること、人種的不寛容や、民族的出身や宗教的信念に基づく煽動や暴力を非難することを明示している。その後毎年、国連本部で記念行事が行われている。                                                                                                                       (2)三月二一日 人種差別撤廃デー                                                                                                                                                      一九六〇年三月二一日、南アフリカ共和国においてシャープビル事件が起きた。アパルトヘイト法に反対するデモが行われたが、デモ隊は平穏に行進していたにもかかわらず、警察が発砲して大混乱となり、六九人の市民が殺害された。南アフリカではかなり以前から、この日がパブリック・ホリデーとなっていた。一九六六年一〇月二六日、国連総会決議によりこの日が国際デーとなった。その後毎年、国連本部でも南アフリカでも記念行事が行われている。                                                                                                                                           (3)四月七日 一九九四年ルワンダ・ジェノサイド反省デー                                                                                                                                                               一九九四年四月七日、ルワンダにおいてツチ民族に対する迫害と虐殺が始まり、八〇万と言われる虐殺が行われた。二〇〇四年四月七日、国連総会で決議が採択された。キガリ(ルワンダ)、ニューヨーク(アメリカ)、ダルエスサラーム(タンザニア)、ジュネーヴ(スイス)で記念行事が行われ、一分間の黙祷が行われた。                                                                                                                                 (4)五月八・九日 第二次大戦時に生命を失った者の記憶と和解の時                                                                                                                                                                                  一九四五年五月八日、ナチス・ドイツが無条件降伏をし、アドルフ・ヒトラーの第三帝国が終焉した。二〇〇四年一一月二二日、国連総会で決議が採択された。決議は、各国、国際機関、NGOに、第二次大戦犠牲者に敬意を捧げるように呼びかけている。                                                                                                                                                          (5)六月二〇日 難民デー                                                                                                                                                                                                 二〇〇一年一二月四日、一九五一年の難民の地位に関する条約五〇周年を記念する決議によって、難民デーが決まった。それ以前からアフリカのいくつかの諸国で、アフリカ難民デーが記念されてきたので、国連は同じ六月二〇日を国際デーとした。                                                                                                                                                                                                                   (6)六月二六日 拷問犠牲者支援デー                                                                                                                                                       一九四五年六月二六日、国連憲章に署名がなされた。国連憲章は人権尊重に言及した最初の国際文書である。また、一九八七年六月二六日、拷問等禁止条約が発効した。拷問犠牲者リハビリテーション委員会を置くデンマーク政府の提案によって、国連総会で決議がなされ、拷問犠牲者支援デーが決まり、一九九八年に最初の記念行事が行われた。                                                                                                                                                                                (6)七月一八日 マンデラ・デー                                                                                                                                                                七月一八日は、南アフリカのネルソン・マンデラの誕生日である。二〇〇九年一一月、国連総会決議によりマンデラ・デーが創設されたが、その前年から一部の諸国や機関によって記念行事が行われていた。二〇〇九年四月二七日、ネルソン・マンデラ基金などが提案して、国連決議となった。マンデラ・デーは南アフリカで祝日になっていたわけではないが、マンデラの遺産を継承し祝賀する日と考えられてきたという。                                                                                                                                    (7)八月九日 世界先住民族デー                                                                                                                                            一九八二年八月九日、当時の国連人権委員会・差別防止少数者保護小委員会の先住民族作業部会が開始された。一九九四年一二月二三日、国連総会決議により国際デーとなり、二〇〇五年から「行動と尊厳」をテーマとする国連第二先住民族の一〇年が始まった。                                                                                                                       (8)八月二九日 核実験反対デー                                                                                                                                                       一九九一年八月二九日、セミパラチンスク核実験場が閉鎖された。二〇〇九年一二月二日、カザフスタンが提案した国連総会決議が全会一致で採択された。決議は、核実験爆発の影響に言及し、核兵器のない世界という目標を達成する手段の一つとして核実験中止の必要性を訴えている。                                                                                                                                                                      (9)一〇月二日 非暴力デー                                                                                                                                                                              一〇月二日はマハトマ・ガンディーの誕生日であり、インドでは以前から記念日とされてきた。二〇〇四年一月、イランのノーベル賞作家シーリン・エバディが提案し、やがてインドでも関心が高まり、二〇〇七年一月にニューデリーで開催されたサティヤグラハ会議に引き継がれた。ソニア・ガンディとデズモンド・ツツ主教の呼びかけを受けて、二〇〇七年六月一五日、国連総会決議が採択されて、非暴力デーとなった。                                                                                                                                       (10)一一月二五日 女性に対する暴力撤廃デー                                                                                                                                                        一九六〇年一一月二五日、ドミニカ共和国で、政治活動家であるミラバル三姉妹が、トルヒーヨ独裁政権によって暗殺された。一九八一年以来、主にラテン・アメリカの活動家たち、NGOが、女性に対する暴力と闘う日として記念行事を行ってきた。一九九三年五月、ウィーン世界人権会議で女性に対する暴力のテーマが正式に取り上げられ、一二月には国連総会で女性に対する暴力撤廃宣言が採択された。翌年から国連人権委員会の議題となり、その後現在にいたっている。一九九九年一二月一七日、国連総会決議によって国際デーとなった。その後、毎年、国連、列国議会同盟、UNIFEMが記念行事を行っている。                                                                                                                                           (11)一二月二日 奴隷廃止デー                                                                                                                                                                         一九四九年一二月二日、国連総会は人身売買禁止条約(人身売買及び他人の売春からの搾取の禁止に関する条約)を採択した。国連は一九八六年以来、この日を国際デーとして記念してきた。                                                                                                                                                                        (12)一二月一〇日 人権デー                                                                                                                                                                            一九四八年一二月一〇日、国連総会が世界人権宣言を採択した。最初のまとまった国際人権文書であり、その後の国際人権規約(自由権規約、社会権規約)、人種差別撤廃条約、女性差別撤廃条約、拷問等禁止条約、子どもの権利条約など国際人権法の出発点となった宣言である。一九語〇年一二月四日、国連総会は一二月一〇日を人権デーとして記念行事を行うことを決定した。国連の各機関におけるハイレベルでの記念行事が行われてきたが、各国政府もさまざまな取組をしてきた。二〇〇八年一二月一〇日は六〇周年にあたり、国連事務総局は一年間の人権キャンペーンを行った。今日、世界人権宣言は、キリスト教の『聖書』に次いで、もっとも多くの言語に翻訳された文書とされている。                                                                                                                                                                   三 おわりに                                                                                                                                                                                         以上、八月一四日を「慰安婦」メモリアル・デーにしたいという関心から、主要なメモリアル・デーを見てきた。それぞれの国連決議の内容など立ち入った検討が望ましいが、ここでは以上の概観をもとに、若干の感想を述べるにとどめる。                                                                                                                                                                                                                                                   第一に、最初に感じたのは、アジア発のメモリアル・デーが少ないことである。パレスチナをアジアと言えないこともないが、それ以外には、一〇月二日の非暴力デーがマハトマ・ガンディーの誕生日を記念している程度である。やはり西欧の出来事が中心である。第二次大戦に関しても、日本ではなく、ナチス・ドイツの降伏がもとになっている。また、アフリカに関連する国際デーも目立つのは、西洋による植民地支配への一定の反省がなされたことと、アフリカ諸国が一致して要求できたからではないだろうか。                                                                                                                                                                                                    核実験反対デーはセミパラチンスクであり、ヒロシマ・ナガサキ・ビキニの記憶は刻まれていない。日本では、八月六日と九日を重要な記念日としているが、国民の祝日にはなっていない。まして、国際社会へのアピールがなされず、国連メモリアル・デーになっていない。日本政府が国連に働きかけることをしなかったからであろう。それどころか、日本政府は、核兵器の使用を禁止する決議に反対投票している有様である。                                                                                                                                                                                                     日本軍「慰安婦」メモリアル・デーをつくる観点で言えば、アジア初の国連デーが少ないことはチャンスと言える。欧州やアフリカの歴史と経験に学んだ国連デーだけではなく、アジアの歴史と経験に学んだ国連デーをつくろうと呼び掛けることができる。                                                                                                                                                                                           第二に、国連デーは、国連総会決議で決められている。他にもILOが決めた記念日やユネスコが決めた記念日もあるが、多くは国連総会である。                                                                                                                                                                                            国連総会で決議をして決めるとなると、提案は基本的には政府によることになる。日本軍「慰安婦」メモリアル・デーを国連総会に提案するためには、政府の協力が必要である。韓国や中国がそこまでの決断をするには、NGOによる強い支援と国際世論の動向が鍵となる。あるいは、アメリカ、カナダ、EU諸国など、「慰安婦」問題に関する決議をしてきた諸国に期待することも考えられるが、そこまで踏み込んでくれるかどうかは難しいのではないだろうか。韓国、中国と、EU諸国が足並みをそろえられるような環境づくりが必要である。                                                                                                                                                                                              マンデラ・デーや非暴力デーのように、政府ではなく民間人・団体がイニシアティヴをとった事例もあるが、最終的には政府が提案していると思われる。これらの事例の詳細な経過も要調査である。                                                                                                                                                                            いずれにせよ、国際NGOや、著名人(著名政治家、著名団体、ノーベル賞受賞者)などに要請して、幅広い運動として国際世論を高めて行く必要がある。                                                                                                                                                                                   また、日本政府の抵抗を乗り越えるためには、まずは国内において、歴史の事実を否定し、被害者を侮辱する異様な暴言・妄言集団を厳しく批判していかなければならない。これまで同様に歴史の事実を明確に記録し、被害者の記憶を心に刻み、継承し、アジア各国の連帯を強化するNGOの努力を継続しなければならない。                                                                                                                                                                                     第三に、固有名詞を含むものと、含まないものがある。ホロコースト、ルワンダ、ネルソン・マンデラ、パレスチナなどの固有名詞が用いられている。固有名詞を掲げるためには、圧倒的な賛成があり、強力な反対意見がないことが必要であろう。ホロコーストは、ユダヤ人が受けた人類史に残る悲劇であり、イスラエル政府を先頭にロビー活動が行われたが、ドイツ政府もこれに反対はしなかった。それどころか、ドイツ大統領がホロコースト・デーに言及していたくらいである。ルワンダ・ジェノサイドもごく最近のとてつもない悲劇であるが、ルワンダ政府が変わったことにより、歴史の記憶と継承がなされることになった。                                                                                                                                                                                                                                日本軍「慰安婦」メモリアル・デーを国連デーにするためには、変わろうとしない日本政府の抵抗を乗り越える必要がある。あえて「日本軍」と掲げて、国際世論を味方につけて、日本政府の抵抗を押し切ることができるか。あるいは、「日本軍」という言葉を削除せざるを得なくなるか。運動の進め方の検討が重要となる。                                                                                                                                                                                                                第四に、類似・関連するメモリアル・デーとの差別化も考えておく必要がある。人種差別撤廃デー、重大人権侵害に関する真実の権利と被害者の尊厳国際デー(三月二四日)、奴隷制と大陸間奴隷貿易の被害者の記憶デー(三月二五日)、女性に対する暴力撤廃デーなどがあるので、これらをさらに調査して、単に重複していると受け止められないように考えていく必要がある。その際、本稿冒頭にも示したように、戦時性暴力被害者が立ちあがり、真相解明と責任追及を求め、自らの人間の尊厳を求めて闘ったことが重要となるだろう。金学順さんが告発した八月一四日をメモリアル・デーとすることの意味を、より深く考究する必要がある。

Sunday, July 21, 2013

原発民衆法廷第10回東京公判

7月20・21日、原発民衆法廷第10回東京公判が開催された。2012年2月の東京公判に始まり、大阪(2回)、郡山、広島、札幌、四日市、熊本、福島での公判を経て、最終公判である。法廷は、最終判決を言い渡して閉廷した。判決等は法廷のブログに近日中にアップされる予定。

Sunday, July 14, 2013

ヘイト・スピーチ処罰は世界の常識である(6)

二〇一一年一〇月一二~一三日、国連人権高等弁務官事務所主催で、国民的、人種的又は宗教的憎悪の煽動の禁止に関するアメリカ州の専門家ワークショップがサンティアゴ(チリ)で開催された。                                                                                  ワークショップの基調報告としてエドゥアルド・ベルトーニが準備した論文「アメリカ州における憎悪煽動禁止に関する研究」は、アメリカ州各国の憎悪煽動禁止法に関する包括的研究である。ベルトーニによる分析及び関連条文(刑法、特別法、憲法など)のほとんどが資料として収録されている。                                                                                                  ベルトーニによると、アメリカ州には三五カ国が存在し、そのうち三〇か国が国際自由権規約の当事国であり、人種差別撤廃条約の当事国も三〇、米州人権条約の当事国は二四である。ベルトーニ論文は、ハイチ、スリナム、キューバ、ドミニカ、パラグアイを除く諸国の情報を分析対象としている。ベルトーニは、刑罰モデルと非刑罰モデルの分類を前提とした右の五つの分類に即して、アメリカ州の刑法、特別法、憲法などの条文を徹底収集し、関連条文を引用し、そのうえで分析している。刑罰モデルのうち、刑法については、さらに三つの下位分類もなされている。すなわち、憎悪煽動、ジェノサイド煽動、差別煽動の三つである。                                                                                                           第一に、北米三カ国である。                                                                                                                     カナダは、(一)刑罰モデルに関して、憎悪煽動禁止、ジェノサイド煽動禁止の刑法を有し、他に行政刑罰法規があり、(二)非刑罰モデルとして憲法の差別禁止条項を持つ。                                                                                                                                        メキシコは、(一)刑法には規定がなく、特別刑法、行政刑罰法規があり、(二)憲法の差別禁止、その他の法律がある。                                                                                                             アメリカ合州国は、(一)刑法はなく、特別刑法だけがあり、(二)非刑罰モデルの法規定は特にない。                                                                                                          第二に、中米七カ国である。                                                                                                               ベリーズは、(二)憲法の差別禁止規定だけしかない。                                                                                                                                         コスタリカは、(一)刑法に差別煽動禁止があり、(二)憲法に差別禁止がある。                                                                                                                                     エルサルバドルは、(一)刑法にジェノサイド煽動禁止があり、(二)憲法に差別禁止がある。                                                                                                                               グアテマラは、(一)刑法にジェノサイド煽動禁止があり、行政刑罰法規があり、(二)憲法に差別禁止、その他の法律がある。                                                                                                                                           ホンデュラスは、(二)憲法に差別禁止がある。                                                                                                                                                 ニカラグアは、(一)刑法にジェノサイド煽動禁止、差別煽動禁止があり、(二)憲法に差別禁止がある。                                                                                                                                                     パナマは、(一)特別刑法があり、(二)憲法の差別禁止、その他の法律がある。                                                                                                           第三に、カリブ地域一〇カ国である。                                                                                                                                  アンティグア・バーブーダは、(一)特別刑法があり、(二)憲法の差別禁止がある。                                                                                                           バハマは、(一)行政刑罰法規、(二)憲法の差別禁止がある。                                                                                                                           バルバドスは、(一)特別刑法、(二)憲法の差別禁止がある。                                                                                                                        ドミニカ共和国(ドミニカとは別の国)は、関連規定がない。                                                                                                                                 グレナダは、(二)憲法の差別禁止がある。                                                                                                                                  ジャマイカは、(一)特別刑法、行政刑罰法規があり、(二)憲法の差別禁止がある。                                                                                                                                           セントキッツ・ネーヴィスは、(二)憲法の差別禁止がある。                                                                                                                                                        セントルシアは、(一)刑法に憎悪煽動禁止、ジェノサイド禁止があり、(二)憲法に差別禁止がある。                                                                                                                                                   セントヴィンセント・グレナディンズは、(二)憲法の差別禁止がある。                                                                                                                               トリニダード・トバゴは、(一)特別刑法、(二)憲法の差別禁止、その他の法律がある。                                                                                                                                      第四に、南米九ヶ国である。                                                                                                                                                    アルゼンチンは、(一)刑法に憎悪煽動禁止があり、特別刑法、行政刑罰法規があり、(二)その他の法律がある。                                                                                                                ボリヴィアは、(一)刑法に差別煽動禁止があり、行政刑罰法規があり、(二)憲法の差別禁止、その他の法律がある。                                                                                                                                                            ブラジルは、(一)特別刑法があり、(二)憲法の差別禁止、その他の法律がある。                                                                                                                               チリは、(二)憲法の差別禁止だけがある。                                                                                                                                                           コロンビアは、(二)憲法の差別禁止だけがある。                                                                                                                                                        エクアドルは、(一)刑法に憎悪煽動禁止、差別煽動禁止があり、行政刑罰法規があり、(二)憲法の差別禁止がある。                                                                                                                                                                        ガイアナは、(一)特別刑法があり、(二)憲法の差別禁止がある。                                                                                                                                                                                                      ペルーは、(一)刑法に差別煽動禁止、(二)憲法の差別禁止、その他の法律がある。                                                                                                                                                                  ウルグアイは、(一)刑法に憎悪煽動禁止があり、特別刑法があり、(二)その他の法律がある。                                                                                                                                                                    ヴェネズエラは、(一)行政刑罰法規、(二)憲法の差別禁止がある。                                                                                                                             以上をもとに、ベルトーニは次のようにまとめている。アメリカ州全体では、(一)刑罰モデルとして、刑法に憎悪煽動禁止をもつのが五ヶ国、ジェノサイド煽動禁止が五ヶ国、差別煽動禁止が五ヶ国、特別刑法が一一ヶ国、行政刑罰法規が九ヶ国あり、(二)非刑罰モデルとして、憲法の差別禁止が二六ヶ国、その他の法律が九ヶ国である。

Monday, July 08, 2013

ヘイト・スピーチ処罰は世界の常識である(5)

2011年7月6~7日、国連人権高等弁務官事務所主催で、「国民的、人種的又は宗教的憎悪の煽動の禁止に関するアジア太平洋の専門家ワークショップ」がバンコク(タイ)で開催された。ヴィチット・ムンターボーン(チュラロンコン大学教授)よる基調報告「国民的、人種的又は宗教的憎悪の煽動の禁止に関する研究――アジア太平洋地域からの教訓」は、この地域の約60ヶ国の法制度の調査に基づいた詳細な研究である。各国の憲法、刑法、民法、特別法などの制定状況が詳しく紹介されている。以下では、ムンターボーン報告書から、刑事規制に関する部分の一部を紹介する。                                                                       (1)ブルネイ                                                                                                  刑法第二九八条 人の宗教感情を傷つける故意をもって、その人に聞こえる言葉を発し、音声を発した者、又はその人に見えるようにジェスチャーをした者、又はその人に見えるように物を提示した者は、一年以下の刑事施設収容、又は罰金とし、又は両刑を併科する。                                                                                                  刑法第五〇五条 ある階級や人々の共同体に、他の階級や人々の共同体に対する犯罪を行うよう煽動し、又は煽動しそうな演説、噂又は報告を行い、出版し、回覧した者は、五年以下の刑事施設収容又は罰金に処する。                                                                                               (2)カンボジア                                                                                              刑法第五九条は、重罪実行の煽動(文書、出版物、デッサン、彫刻、絵画、記章、フィルム又はその他)を処罰することとするとともに、次のように規定する。                                                                                                             刑法第六一条 第五九条に掲げられた手段の一つによって、差別、敵意又は暴力にあたる国民的人種的宗教的憎悪を挑発した者は、一月以上一年以下の刑事施設収容、又は一〇〇万以上一〇〇〇万リエル以下の罰金とし、又は両刑を併科する。                                                                                                                           (3)マレーシア                                                                                                                                 刑法第二九八条 人の宗教的又は人種的感情を傷つける故意をもって、その人に聞こえる言葉を発し、又は音声を発した者、又はその人に見えるようにジェスチャーをした者、又はその人に見えるように物を提示した者は、三年以下の刑事施設収容、又は罰金とし、又は両刑を併科する。                                                                                                                                                       マレーシア刑法第二九八条Aは、異なる集団間の敵意の促進も犯罪としている。                                                                                                              (4)シンガポール                                                                                                                                        刑法第二九八条 人の宗教的又は人種的感情を傷つける故意をもって、その人に聞こえる言葉を発し、又は音声を発した者、又はその人に見えるようにジェスチャーをした者、又はその人に見えるように物を提示した者、又はその人に見えるか聞こえるように出来事を惹起した者は、三年以下の刑事施設収容、又は罰金とし、又は両刑を併科する。                                                                                                                                         (5)ヴェトナム                                                                                                                                                                   刑法第八七条 人民管理を阻害するために以下の行為のいずれかを行った者は、五年以上一五年以下の刑事施設収容に処する。(b)ヴェトナム国民の共同体に憎悪、民族的偏見及び/又は分断をまき散らし、平等の権利を侵害すること。                                                                                                                                            (6)アルメニア                                                                                                                                                刑法第二二六条 1.国民的、人種的、宗教的憎悪の煽動、人種的優位性又は国民の尊厳を侮辱するための行為は、二〇〇以上五〇〇以下の基本給与の罰金、又は二年以下の矯正労働、又は二年以上四年以下の刑事施設収容に処する。2.本条第1項に掲げられた行為であって、(a)公然と又はマスメディアを通じて、暴力又は暴力の威嚇、(b)公的地位の濫用、(c)組織された集団によるものについては、三年以上六年以下の刑事施設収容に処する。                                                                                                                                                     (7)アゼルバイジャン                                                                                                                                           刑法第二八三条 民族的、人種的、社会的又は宗教的憎悪及び敵意を煽り、又は民族的誇りを損傷するための行為、及び市民の権利を制限し、又は市民に、その民族的、人種的出身、社会的地位、宗教への姿勢に基づいて特権を与える行為は、それらの行為が公然と又はメディアを用いてなされた場合、一〇〇〇以上二〇〇〇以下の名目金額の罰金、又は三年以下の自由の制限、又は二年以上四年以下の刑事施設収容に処する。                                                                                                                                              (8)キルギスタン                                                                                                                                                  刑法第二九九条によると、国民的、人種的、宗教的憎悪は特別な犯罪とされる。                                                                                                                         (9)ウズベキスタン                                                                                                                                           刑法第一五六条によると、民族的、人種的、宗教的憎悪の煽動は五年以下の刑事施設収容とされている。                                                                                                                   (10)イスラエル                                                                                                                                      刑法第一七三条によると、他人の宗教的感情や信念を侮辱する印刷物、文書、絵画、肖像を出版した者、又は公共の場で及び相手に聞こえるように、宗教的感情や信念を侮辱する言葉や音声を発した者は、一年の刑事施設収容とされている。                                                                                                                          (11)東ティモール                                                                                                                                             刑法第一三五条 1.宗教的又は人種的差別、憎悪又は暴力を煽動又は奨励する組織を設立・結成し、又は組織的宣伝活動を行った者、又はその組織に参加し、前文で言及された活動を行った者、財政を含む支援を提供した者は、四年以上一二年以下の刑事施設収容に処する。                                                                                                                                                       2.公開集会で、配布又はメディアのために準備された文書により、人種、皮膚の色、民族的出身又は宗教を理由に、人種的又は宗教的差別を煽動又は奨励する意図をもって、人又は人の集団に対する暴力を唱道した者は、二年以上八年以下の刑事施設収容に処する。                                                                                                                                                      (12)ニュージーランド                                                                                                                                                               一九九〇年の人権章典が、ヘイト・スピーチを民事上の違法事由とするのみならず、一部について刑事責任を定めている。                                                                                                                        人権章典第一三一条 皮膚の色、人種、又は民族的又は国民的出身に基づいて、ニュージーランドにおける人々の集団に、敵意又は悪意を煽動する意図をもって、侮辱又は嘲笑した者は、犯罪を行ったものであり、三月以下の刑事施設収容、又は七〇〇〇ドル以下の罰金に処する。(a)威嚇、虐待又は侮辱に当たる文書を出版又は配布し、又は威嚇、虐待又は侮辱に当たる言葉をラジオ又はテレビにより放送した場合(以下略)。

Thursday, July 04, 2013

ヘイト・スピーチ処罰実例(15)

ノルウェー政府が人種差別撤廃委員会に提出した報告書CERD/C/NOR/19-20. 12 August 2010.によると、2007年12月21日の最高裁判決は、1902年刑法第135条が人種主義表現からの純粋の保護を意味するとした。2003年7月に、『ヴェルデンス・ガング』という新聞のインタヴューでユダヤ人について述べた発言に適用された事案である。「ヴィグリッド」組織の指導者が次のように述べた。「ユダヤ人を根絶するために、社会で力を手にしたい」、「ユダヤ人が主敵だ。奴らはわれわれを殺してきたじゃないか。邪悪な殺人者なんだ。人間じゃなくて、始末しなければならないパラサイトなんだ」、「ユダヤ人はわれわれを何百万も殺してきた。我が国で権力を手に入れている」。最高裁判所は、実行者は、明らかにユダヤ人の統合を侵害する行為を助長・支持したとし、この発言は重大な性格を持った侵害であり、集団の人間の尊厳を貶めたのであり、刑法第135条に違反するとした。

Wednesday, July 03, 2013

ヘイト・クライム禁止法(30)

アルメニア政府が人種差別撤廃委員会に提出した報告書CERD/C/ARM/5-6. 20 July 2010.によると、2003年8月のアルメニア刑法は人種差別撤廃条約第4条に由来する。刑法第226条によると、国民、人種又は宗教的憎悪又は敵意の煽動、人種的優位性の表明、又は国民の尊厳を侮辱することを目的とした行為は犯罪とされ、最低賃金の200以上500倍以下の罰金、又は2年以下の矯正労働、又は2年以上4年以下の刑事施設収容に処するとされる。同条2項は、刑罰加重として、同様の行為を公に又はマスメディアを通じて、暴力又は暴力行使の威嚇や、権力濫用によって行った場合、3年以上6年以下の刑事施設収容とする。刑法第63条は、刑罰加重事由として、国民、人種又は宗教的憎悪、又は宗教的熱狂に基づいて犯罪を行ったことを掲げている。                                                                     人種差別煽動団体の禁止は刑法第226条に含まれていないが、憲法第47条2項は、権利や自由は、国民、人種及び宗教的憎悪、暴力のプロパガンダ、及び戦争を煽動することを目的とする場合は制限されるとしている。2001年のNGO法や、政党法は、人種的敵意の煽動を目的とする団体の制限を定めている。

Tuesday, July 02, 2013

ヘイト・スピーチ処罰は世界の常識である(4)

前回に引き続き今回はアフリカ諸国の情報を紹介する。アフリカ諸国と言っても一様ではない。イスラム圏あり、中央アフリカあり、南部アフリカあり、社会の状況も、法の特徴もそれぞれ異なることは言うまでもない。そして、ヘイト・スピーチ処罰規定の中には、宗教への批判を許さない抑圧的な規定もあれば、軍事独裁的な状況で弾圧に利用される場合もある。もっとも、それはアフリカだけのことではないが。                                                                               ドゥドゥ・ディエン(人権理事会の元・人種主義人種差別特別報告者)は、アフリカにおける憎悪煽動禁止に関して三点を強調している。第一に、民族と人種が国民形成や紛争に際して中心的役割を果たしたことである。その極端な例がルワンダである。第二に、憎悪煽動禁止規定よりも、表現の自由やメディアの自由の規定の方が多く存在することである。第三に、多くの諸国では、部族主義と宗教が顕著なことである。これに対して、市民社会による人権擁護が弱体であると言う。以下、ディエン論文からの紹介である。                                                                        (1)アルジェリア憲法第二七条は人種差別との闘い、第二九条は法の下の平等、第三六条は意見の自由、第四一条は表現の自由を定めるが、刑法第二九八条は名誉毀損罪を定めている。                                                                                            (2)アイボリー・コーストでは、二〇〇八年の刑法改正(法律二〇〇八―二二二号)によって刑法第一九九条(人種主義、外国人嫌悪、部族主義、人種差別、宗教差別)、第二〇〇条(前記の処罰規定)、第二〇〇条の一(名誉毀損罪)などを定めている。                                                                                                            (3)ジブチ憲法第一一条(思想良心宗教の自由)に加えて、表現の自由法が制定されている。                                                                                                                                     (4)エジプト憲法第四七条(意見表現の自由)、第四八条(プレスの自由)、第四九条(学問研究の自由)に加えて、刑法第九八条は煽動をしたり、宗教を貶めたりする観念の促進・表明を犯罪としている。刑法第一七六条は「人種、出身、言語、信念ゆえに人々の集団の一つに対する差別を教唆した者が、教唆によって公共の秩序を害した場合、刑事施設収容される」とする。刑法第一七八条は、公共の道徳を侵害する文書、広告、写真、シンボリックなものを製造・所有することを犯罪としている。                                                                                                                         (5)ガンビア憲法第四章は基本権規定であり、人種等の差別なく権利を享受するとしている。第五章には言論表現の自由、思想良心の自由などが明記されている。ガンビア刑法第一〇・一一七条は、宗教を侮辱する目的などをもって礼拝所などを攻撃する行為を犯罪としている。宗教儀礼や宗教感情を保護する刑罰規定も複数ある。                                                                                                            (6)ギニアビサウ憲法第四条は、人種主義を鼓舞する政党を禁止し、第五六条は表現の自由を定めている。刑法第一〇二条「人種差別」は「差別、憎悪、人種暴力を煽動し、鼓舞する組織を設立した者、組織的宣伝に加わった者、以上の組織や活動に参加した者、財政支援をした者は、一年以上八年以下の刑事施設収容とする。公開集会で、文書、アナウンス、その他の社会的伝達手段によって、人種差別を煽動又は鼓舞する意図をもって、人種又は民族的出身ゆえに個人又は集団に対して暴力行為を惹起した者は、一年から五年の刑事施設収容とする」としている。                                                                                                                                  (7)リビア刑法第三一八条は、公共の秩序を乱す方法で集団に対して公然と憎悪又は侮辱の煽動をした者は処罰されるとする。                                                                                                                            (8)モロッコ・プレス法第三八条は、公共の場所又は集会で演説、叫び、威嚇によって、文書、印刷物で、公共空間におけるポスターによって、オーディオ・ヴィジュアルや電子メディアによって、挑発を行ったことを犯罪とする。プレス法第三九bis条は、同じ手段によって、人種、出身、皮膚の色、民族、宗教ゆえに、個人又は諸個人に、人種差別、憎悪、暴力を煽動した者、戦争犯罪や人道に対する罪を支持した者を処罰するとしている。                                                                                                                                                        (9)ニジェール憲法第二三条は思想、意見、表現、良心、宗教の自由を定めている。刑法第一〇二条は、人種又は民族差別行為、地域主義宣伝、良心や礼拝の自由に反する出来事は、一年以上五年以下の刑事施設収容又は追放とするとしている。                                                                                                                                              セネガル憲法第五条は人種民族宗教差別を犯罪とすると規定している。刑法第一六六条bisは、行政官などが正当な理由なしに個人に民族的理由で差別的取り扱いをすることを犯罪としている。一九八一年一二月一〇日の法律第八一―七七号が、人種民族宗教差別の抑止を規定しているという(条文は紹介されていない)。                                                                                                                                  (10)シエラレオネ憲法第六条は各種の差別を禁止するとともに、憲法第二五条は表現と意見の自由を定める。公共秩序法第二〇条は戦争宣伝を禁止し、第四四条第一項は差別、敵意、暴力にあたる国民的人種的宗教的憎悪の唱道を禁止している。                                                                                                                                               (11)タンザニア刑法第四三条は、法的権限がないのに、個人又は人の集団に対する戦争や戦争類似の事態を行い、行う準備をし、準備することを犯罪としている。刑法第五五条は、暴力の煽動及び差別、敵意、暴力にあたる国民的宗教的憎悪の唱道を犯罪としている。                                                                                                                                                                                                 (12)ウガンダ憲法第二九条は言論表現の自由、思想良心の自由、宗教の自由を保障している。刑法第七六条Bは、人種、出身地、政治的意見、皮膚の色、信条、性別又は職務を理由に、人に対する暴力行為を煽動した者を一四年未満の刑事施設収容としている。                                                                                                                                                             (13)ジンバブエ憲法第二〇条は表現の自由を定めている。法と秩序維持法第四四条第一項は、差別、敵意、暴力にあたる国民的人種的宗教的憎悪の唱道を禁止している。