Sunday, November 03, 2013

「ブラック企業」とたたかう

今野晴貴『ブラック企業――日本を食いつぶす妖怪』(文春新書)――著者とは会ったことがある。NPO法人POSSE立ち上げの頃だ。POSSEに賛同してメッセージを送ったように記憶しているが、自分の研究・活動テーマとはやや離れているため、その後、特にかかわってこなかった。申し訳ない。改めて、見ると、著者は大学の後輩だ。確かに当時、そんなことを話していたのも覚えている。POSSE立ち上げが2006年で、著者はその頃まだ学生だった。今も大学院生だが、すでに著書が複数ある。しかも、本書を見ると、ブラック企業の被害者からの相談に基づく現実をもとにしているうえ、同時に労働法をはじめとする理論を的確に構築している。同じ若者世代のための闘いの書であると同時に、現代日本社会分析でもある。凄い。著者は嫌がるだろうが、私の自慢の後輩、ということになる(このところ、不祥事を起こした弁護士とか、同じく不祥事でビッグニュースとなった母校の総長とか、フロッピディスク改ざん事件の元大阪特捜部長とか、先輩や後輩はこんなのばかりで、情けない)。第1章でブラック企業の実態を事例をもとに明らかにし、第2章ではウェザーニューズ、大庄、ワタミ、SHOP99を実名告発し、第3章でパターンわけをし、第4章ではブラック企業が開発してきた「辞めさせる技術」を分析し、第5章で個人がいかに身を守るかを論じる。しかし、ブラック企業は社会問題であり、個人被害者だけの問題ではないとして、著者は日本企業論、日本社会論に踏み込む。第6章で「若く有益な人材の使い潰し」がいかにコストとなるかを示し、ブラック企業がそのコストを社会に転嫁していることを論じる。とても重要な指摘だ。第7章ではブラック企業を生んだ背景というか、地盤としての日本型雇用も分析し、第8章で社会的対策を提言する。「ブラック企業問題は、若者の未来を奪い、さらには少子化を引き起こす。これは日本の社会保障や税制を根幹から揺るがす問題である。同時に、ブラック企業は、消費者の安全を脅かし、社会の技術水準にも影響を与える」と言い、「これまでただ『自分を責める』ことしか知らなかった私たちの世代が、『ブラック企業』という言葉を発明し、この日本社会の現状を、変えるべきものだとはじめて表現したことにこそ、この言葉の意義はある。ブラック企業は『概念』なのではない。私たちの世代が問題意識を持ち、それを結びつけ、そして世の中を動かしていこうとする『言説』なのである」(本書おわりに)と述べる。30歳の若者が、同世代の若者と、日本社会を救うために、本書を世に問うた。今後も著者とPOSSEに注目。