Monday, October 07, 2013

ヘイト・スピーチと闘うために

有田芳生『ヘイトスピーチとたたかう!』(岩波書店)                                                               昨日は京都朝鮮学校襲撃事件民事訴訟で、京都地裁が、在特会の差別街宣は人種差別撤廃条約にいう人種差別に当たり、不法行為であり、高額の損害賠償と街宣差止を命じるという、非常に良い判決を出した。今朝の朝日新聞、毎日新聞、東京新聞、京都新聞、琉球新報、沖縄タイムズ、岐阜新聞などが社説で取り上げている。しかし、朝日新聞社説をはじめ主流は「表現の自由か、ヘイト・スピーチの規制か」という奇妙な二者択一を掲げる。毎日新聞に登場している識者もこの二者択一を唱える。これでは議論にならない。思考停止状態だ。「表現の自由を守るためにヘイト・スピーチを規制しなければならない」。こう考えるべきだ。「表現の自由だから規制できない」というのなら、EU加盟国すべてが処罰していることをどう説明するのか。EU諸国には表現の自由がなく、日本にだけ表現の自由があるとでも言うのだろうか。ヘイト・スピーチという言葉は今年になって日本で普及し始めた。議論の蓄積がない。このため初歩的知識すら持っていない法律家が多い。ジャーナリストも条件反射のごとく表現の自由と唱える。現場を知らず、被害実態を無視した議論である。本書は著名なジャーナリストで参議院議員の著者の、在特会などによる異常な差別街宣、ヘイト・スピーチとのたたかいの記録である。差別の現場へ行き実態を把握し、国会内で2度にわたって討論集会を開催し、国会質問でも取り上げ、研究者の意見に耳を傾けながら、著者はヘイト・スピーチといかにたたかうのか、思索し、議論し続けている。表現の自由は大切だが、ヘイト・スピーチの問題は必ずしも表現の自由の文脈で考えるべきではないことも指摘されている。人種差別撤廃条約を批准しながら条約の実施に後ろ向きの日本政府と法律家の限界を乗り越えるため、実態把握と、諸外国の法規制の調査を進め、公的な議論を呼びかける。とりあえず罰則のない人種差別禁止法をつくり、人権機関や救済機関をつくる。そのためにまず調査委員会をつくる。その前提としてヘイトスピーチ研究会を発足させると言う。著者は最後に、「法的規制は必要ないという専門家には、ぜひ各地の『現場』へ足を運び、デモの異様さを感じていただきたいのです。・・・そして被害者の声を直接聞いていただきたい」と述べる。巻末には、在特会を取材し続けてきたジャーナリスト安田浩一、ヘイト・スピーチ法に詳しい専門家・師岡康子との座談会が収録されている。