Friday, August 23, 2013

まだ知られざるミケランジェロ

池上英洋『神のごときミケランジェロ』(新潮社)                                                                           *                                                                                                同僚の本をほめるのもなんだが、同僚と言っても、こちらは法律屋で、先方は美術史家なのでまったく畑違い。「なんて素敵な本だろう」の一語だ。宣伝文句は「『西洋美術』とは何か? その答えがここに」と大きく出ている。たぶん編集者がつけたのだろう。「彫刻、絵画、建築のすべてで空前絶後の作品群を創りだした西洋美術史上最大の巨人。その全容をひもとく、待望の入門書。」9月6日から上野の国立西洋美術館で「ミケランジェロ展」が開かれるので、ちょうどいいタイミングだ。                                                                                                     序文で著者は「これほど巨大な彼のことを、私たちはまだ十分には知らない。彼の作品が何を意味し、どのような意図で制作されたかを私たちは知っていない。そして山ほどある彼の作品群の彼方に、はるかに多くの未完成作品が転がっていることを知らない。」と述べる。巨大すぎるミケランジェロ・ブオナローティを知るための格好の入門書として、本書はある。表紙も装丁も、構成も文章も、どれをとっても素敵な本だ。120頁の小著だが、ミケランジェロの生涯がわかる。主要作品がわかる。カラー写真で見ることが出来る。次々とエピソードが紹介される。人間模様も見えてくる。とてもぜいたくな気分にさせてくれる。全12章は、父の反対を押し切って彫刻家を目指した少年の話から、時代を代表する巨人の死まで、順を追い、その時々の主要作品を取り上げながら万華鏡のように進行する。変転し、闘い、かと思えば素早く逃げ回り、愛し、憎み、それでも愛した巨人にして弱虫の華麗だが放埓な生涯を知ることで、時代の香りを少しわかった気になれる。本当はサンピエトロ大聖堂に持って行って読みたいが、そうもいかない。レマン湖畔のモンレポ公園で大噴水と水遊びする子どもたちを見ながら、ゆっくりと紐解いた。                                                                                                                                                           著者は東京造形大学准教授。イタリアを中心に西洋美術史、文化史を研究。東京藝術大学卒業、大学院修士課程修了。イタリア留学を経て帰国。著書に『Due Volti dell’ Ananorfosi』『レオナルド・ダ・ヴィンチ』『もっと知りたいラファエッロ』『恋する西洋美術史』『イタリア24の都市の物語』『西洋美術史入門』など。