Friday, November 23, 2012

国境問題----元外交官による領土外交批判

孫崎享『日本の国境問題』(ちくま書房)


 

雨の休日はうっとうしいので、うっとうしさを追い払うため、BGMKYAN MARIE & MEDUSABURNING BLOOD。沖縄ロック史に燦然と輝くマリーとメデューサの快適なサウンド。1990年。

 

『日米同盟の正体』『アメリカに潰された政治家たち』に続いて、新刊『戦後史の正体』がベストセラーとなった著者の領土・国境論。

 

外交官出身で、元防衛大学校教授だが、対米追随の日本に反省を迫る孫崎の議論は、左右両翼に賛同者を見出すとともに、一部には激しい反発を呼んでいる。

 

<海に囲まれた島国・日本にあっても、周辺には解決が困難な国境問題を抱えている。尖閣・竹島・北方領土。領土は魔物である。それが目を覚ますと、ナショナリズムが燃え上がる。経済的不利益に、自国の歴史を冒涜されたという思いも重なり、一触即発の事態に発展しやすい。突き詰めれば、戦争はほぼすべて領土問題に端を発する―。中ソ国境紛争やイラン・イラク戦争の現場に外交官として赴任、情報収集にあたり、その後、防衛大学校教授として日本の安全保障を研究・分析した外交と国防の大家が論点を腑分け。平和国家・日本の国益に適った戦略を明かす。>

 

目次

第1章 血で血を洗う領土問題―私がみた現代世界の国境紛争

第2章 尖閣諸島をめぐる日中の駆け引き―戦後の尖閣諸島史

第3章 北方領土と米ロの思惑―大国の意図に踊る日本

第4章 日米同盟は役に立つのか―米国にとっての日本領土

第5章 領土問題の平和的解決―武力を使わせない知恵

第6章 感情論を超えた国家戦略とは―よりよい選択のために

 

本書の特徴は、次の3点だろうか。

 

1.   外交官出身らしく、領土紛争の国際比較の視点を提示し、国際法における領土解決方策の実例を紹介し、その枠組みの中でベターな戦略を考えようとする。

2.   対米追随の戦後史がたどった過ちが領土問題にも典型的にあらわれているとし、一歩身を引いて冷静に考えるように提案している。

3.   北方領土、竹島、尖閣諸島のいずれにせよ、武力紛争につながることは日本の国益に反しているとし、国益維持のためにこそ平和的解決を模索するべきとして具体策を提示している。

 

以上の意味では、学ぶに足りる1冊だ。

 

新書1冊で北方領土、竹島、尖閣諸島を扱い、しかも上記の3点を備えている。このため一つ一つの論争に関する記述は決して十分とは言えないが、それはやむを得ないだろう。

 

領土問題では、ポツダム宣言、サンフランシスコ条約などの基本理解さえできていない著作が次々と出ているだけに、本書の意義は大きい。同じく外交官出身の浅井基文とは立場がかなり違うようだが、領土問題の法的な議論としては似ている。