Sunday, August 12, 2012

市民的政治的自由の破壊

法の廃墟(11)

市民的政治的自由の破壊


『無罪!』2007年3月



 庶民切り捨ての格差社会(階級階層差別社会)を基礎に、戦争国家への道を転落しつつある現在、一人ひとりの市民の自由と権利が攻撃に曝されている。格差社会における社会権の剥奪だけではなく、市民的政治的自由までもが一定の特権階級に限られつつある。



当て逃げ判決



 二〇〇四年三月、東京で目黒社会保険事務所職員が休日に自宅付近で共産党ビラを配布しただけで逮捕・起訴された「国公法・目黒社会保険事務所職員事件」は、二〇〇六年六月二九日、東京地裁において一審有罪判決が言渡された。僅か一〇万円の罰金に執行猶予がつくという、裁判所にも「一ミリの恥」があることを示すための「当て逃げ判決」である。

 国公法一〇二条一項による公務員の政治活動一律・包括的制限と罰則の合憲性は、一九四八年の制定時から一貫して争いの対象となった。憲法学説においては人事院規則への白紙委任への批判が強まり、下級審でも一九六七年の猿払事件旭川地裁判決以後、違憲の疑いが強まっていった。一九七四年の猿払事件最高裁大法廷判決は合憲判断を下したが、違憲の疑問や批判が続いた。合憲判決にもかかわらず、同条項の適用が不可能となり、三〇年が経過した。

 ところが、目黒社会保険所職員事件がこの封印を開いた。しかも、勤務時間外に職場から離れた場所での単なる日常的なビラ配布に対して、大量の捜査官を動員しての尾行、監視、盗撮が行われていた。公務員の政治的自由に対する乱暴な攻撃に対して、多くの法学者が抗議の声を挙げ、東京地裁に一二の意見書が提出された。意見書は、立法事実、比較法(公務員の政治活動の制限について)、憲法解釈(合憲性判断基準論、国公法適用の違憲性、刑事制裁の違憲性)、罰則適用論、捜査手続き論、国際人権法の解釈・適用に及び、この問題の法律論が総合的に展開された(法律時報編集部編『法律時報増刊・新たな監視社会と市民的自由の現在』日本評論社、二〇〇六年)。

 しかし、東京地裁は、多くの意見書と弁護人の主張を省みることなく、機械的形式的な法解釈によって漫然と有罪の言い渡しをした(被告人控訴)。その法解釈の水準のあまりの低さに仰天した法学者が多いことは言うまでもない。

他方、二〇〇四年一二月、葛飾区でマンションのドアポストにチラシを配布した僧侶が逮捕され、住居侵入容疑で起訴された。二〇〇六年八月二八日、東京地裁は無罪を言渡したが、検察が控訴している(葛飾ビラ配布弾圧事件)。二〇〇五年九月には、世田谷区で政党ビラを集合ポストに配布した厚生労働省職員が逮捕され、住居侵入容疑で東京地裁に起訴されている(国公法・世田谷事件)。これらは、自衛隊官舎ポストに反戦ビラを配布しただけで、二〇〇四年二月、住居侵入容疑で逮捕され、同年一二月一六日、東京地裁八王子支部で無罪を言渡された「立川反戦ビラ事件」と共通の事件である。立川事件は、二〇〇五年一二月九日、東京高裁の不当逆転有罪判決が出たため、被告人側が最高裁に上告中である。



火事泥捜査



本年一月二八日、大阪府警外事課と生野署は、排ガス規制を逃れるためトラックの使用本拠地を虚偽登録したとして、朝鮮総連大津支部委員長ら二人を電磁的公正証書原本不実記載・同供用の疑いで逮捕し、同支部など関係先五か所を捜索した。NOx・PM法の排ガス基準を満たさないトラックを生野区の自分の店で使っていたのに、二〇〇六年八月、「使用本拠地」が自宅にあるように装い、滋賀運輸支局に虚偽の登録をした疑いという。当日のTVや新聞は一斉に、あたかも朝鮮総連の犯罪であるかのごとく報道した。
 滋賀朝鮮学校も強制捜索の対象とされた。子どもたちが学ぶ教育現場にまで土足で踏み入った警察当局に対し、教員や父母の怒りは頂点に達している。一月三〇日には滋賀県庁で記者会見を行い、政治的意図が明白な強制捜索の不当性を厳しく非難した。三一日には同校で緊急集会を開いた。

 朝鮮半島の緊張が高まる度に、公安警察は火事場泥棒的に朝鮮人弾圧事件を惹き起こしてきた。日朝関係が厳しさを増す中、全国各地で「朝鮮総連系」とされる朝鮮人への弾圧を繰り返している。兵庫県、北海道などでも些細な口実による強制捜査が続いている。ほとんどが届出をつい失念したとか、軽微なミスを口実にしたもので、同じことを日本人がやっても捜査の対象にされることはない。行政指導で済むことだ。ところが、朝鮮人相手となると、数十人から数百人の警官を動員して、ものものしい強制捜策劇を繰り広げ、マスコミに宣伝させる。朝鮮人に対する強制捜索が行われたことを大宣伝させて、朝鮮総連組織を破壊し、朝鮮人弾圧をすることが目的である(前田朗「ミサイル実験以後の在日朝鮮人への人権侵害」世界二〇〇六年一一月号)。



でっち上げ逮捕



 本年一月二三日、神奈川県警公安部は、神奈川県相模原で反基地、公害問題などに取組む「エコアクションかながわ」メンバーである大学院生を、不正に建物の賃借権を取得したとして詐欺罪の容疑で逮捕した。同時に神奈川県警公安部は、大学院生の住居を含む関係者宅三ヶ所を家宅捜索し、書類、本、インターネットの情報など大量に押収した。

 内田雅敏(弁護士)によると、実体は大学院生が「エコアクションかながわ」のメンバー二人と一緒に三人で住むために二LDKの部屋を借りたものである。しかも、仲介業者に対して三人で住む旨はっきりと告げた上で物件を探してもらい、本件賃貸借契約を締結し、三人で居住し始めたのである。

 ところが、契約書には二人で居住するとの誤記があったことに目をつけて、神奈川県警は、「詐欺事件」を捏造した。「エコアクション」がブント・センキ派に属しているとされたため、「極左暴力集団」とのレッテルを貼り、強引に逮捕に持ち込んだ。ブント・センキ派はかつて三里塚でロケット弾を飛ばしたことがあったというが、それは二〇年以上も前のことで現在は全くそういうことはしておらず、反基地、公害問題などに取組んでいる団体である。大学院生がメンバーになったときは、すでに路線転換がなされていた。

 それにもかかわらず、神奈川県警公安部は大学院生を逮捕し、横浜地検は勾留請求をし、これが却下されるや準抗告(異議申立)をした。準抗告審を担当した横浜地裁第三刑事部は、勾留請求を却下した原決定を取消し、勾留を認め、かつ接見禁止決定までした。その際、認定した被疑事実が前述した「極左暴力集団」云々である。

 共産党、朝鮮総連、「極左暴力集団」とレッテルを貼りさえすれば何をやってもいいと言わんばかりの無法国家が出現している。自分は関係ないと思っている市民が狙われるのは次だ。