Wednesday, March 23, 2011

グランサコネ通信2011-17





































国連欧州本部で開催されたセネガル・アート展

グランサコネ通信2011-16














































国連欧州本部で開催された平和キルト展

グランサコネ通信2011-15

グランサコネ通信2011-15

3月20日

地震・津波・原発崩壊事態のため帰国を見合わせていましたが、明日の飛行機で22日に帰国の予定です。

1)18日の人権理事会は、ミクロネシア、モーリタニア、アメリカの普遍的定期審査でした。

アメリカははじめての普遍的定期審査です。2010年11月5日に作業部会が行われ、今回、その報告書が公表され、勧告に対するアメリカ政府の回答も出ました。各国からの勧告はなんと228も出ています。たいていは100くらいのところ。

主な項目は誰でも予想のつくものばかり。

アメリカは国際人権条約の批准の数が非常に少ないので、まず国際社会権規約、女性差別撤廃条約、子どもの権利条約、それらの選択議定書を批准するようにとの勧告がたくさん。

さらに、人種差別に対処すること、ヘイト・クライムに適切に対応すること。

未決及び既決の被拘禁者処遇を改善すること。

拷問をなくすこと(国内の刑事施設)

死刑を廃止すること。

反テロ法の実務を改めること(拷問、恣意的拘禁、長期未決拘禁、グアンタナモ、アブグレイブ、秘密拘禁など)。

ムスリム差別をやめること。

など実に多くの勧告が出されています。

アメリカ政府は、勧告を受け入れるもの、一部受け入れるもの、受け入れないものなどの回答をしました。例えば、市民権と差別に関する勧告は基本的に受け入れる方針。刑事司法に関してもかなりは受け入れ。しかし、被拘禁者、特にジャーナリストの表現の自由を保障せよという勧告は拒否。18歳未満の少年で重大犯罪で終身刑などになった者の処遇改善勧告も拒否。死刑廃止勧告も拒否。先住民族に関しては、国連先住民族権利宣言を解釈基準とせよという勧告を拒否。「国家の安全保障」を何度も何度も強調して、勧告を拒否しています。アブグレイブ、バグラム、グアンタナモにおける拷問批判や閉鎖勧告を拒否。「テロ容疑」と称する被告人を軍法会議ではなく通常裁判所で裁けという勧告も拒否。国際社会権規約、移住労働者権利保護条約、国際刑事裁判所規程を批准せよという勧告を拒否。国際自由権規約や拷問禁止条約の一部留保を撤回せよという勧告を拒否。

さて、日本政府ですが、18日には何も発言しませんでした。というか、16~18日の3日間の普遍的定期審査では完全沈黙。ただし、昨年11月5日の作業部会で発言した記録が残っています。なんと、「日本政府は、アメリカは、多人種、多国民、多宗教社会というユニークな文脈で、人権問題に積極的に取り組んでいると称賛した」という記録が国連文書に出ています(A/HRC/16/11. para.80. 4 January 2011)。私は茫然自失。

他方、1つだけですが、日本政府はアメリカに対して勧告も出しています。社会権規約、女性差別撤廃条約、子どもの権利条約を批准するようにという勧告です。同じ勧告を、インドネシア、ベトナム、インド、中国、スロヴァキア、韓国、オーストリア、トリニダードトバゴ、スーダン、スペイン、ヴェネズエラなども出しています。当たり前で、しかも目立たない勧告です。しかも、日本以外の国は、アメリカに対して、国際刑事裁判所規程、子どもの権利条約選択議定書、移住労働者権利保護条約、障害者権利条約、いくつかのILO条約、社会権規約選択議定書、自由権規約第一選択議定書などの批准も勧告していますが、日本政府はそれには言及していません。たいした内容はなくても、日本政府がアメリカに対してせめて1つ勧告を出したことを評価すべきでしょうか???

朝鮮政府はアメリカに対して9つの勧告を出しています。日本のマスコミは絶対報道しませんから、紹介しておきます。

女性差別撤廃条約を批准するように。

「北朝鮮人権法」という内政干渉の法を廃止するように。

住居・労働・教育における広範な人種差別にきちんと取り組むように。

法執行における人種主義プロファイルをやめるように。

宗教に対する誹謗中傷をやめるように。

他国に対する一方的な制裁措置をやめるように。

アフガニスタンとイラクにおける民間人殺害をやめ、被害者に補償し、グアンタナモなどCIA秘密キャンプを閉鎖するように。

国内国外における残虐な刑罰や拷問を禁止するように。

外国の基地における女性に対する暴力など重大人権侵害に効果的に対応するように。

9番目は重要なので全文を。

「92.116 外国の基地に駐留する米軍兵士が数十年にわたって行っている、女性に対する暴力などの重大人権侵害を終わらせるために適切な措置を取るように」。

言うまでもありませんが、これは沖縄や韓国の米軍基地のことです。朝鮮政府が、沖縄の米軍基地における暴力を批判しているのに、それを聞いた後で、日本政府は「アメリカは人権問題に積極的に取り組んでいると称賛」したのです。言うべき言葉がありません。

2)反差別国際運動日本委員会編『今、問われる日本の人種差別撤廃--国連審査とNGOの取り組み』(2010年)

昨年2月の人種差別撤廃委員会における日本政府報告書審査、3月の勧告などをまとめた記録です。人種差別撤廃NGOネットーワークの事務局を担った反差別国際運動の編集で、NGOネットワークのメンバーたちが執筆しています。ちょっと原稿を書く必要があって、資料として重要なので持参して、今回ざっと読み直しました。

3)竹田いさみ『世界史をつくった海賊』(ちくま新書、2011年)

世界周航で有名なドレークは実は海賊であり、エリザベス1世の命を受けて、スペイン船を襲っては財宝を略奪してイギリスに富をもたらしたので、女王からナイトの称号までもらったそうです。イギリス・スペイン戦争でイギリスが勝利したのも、弱体のイギリス軍の力ではなく、海賊たちの活躍によるものでした。先に植民地帝国をつくったスペインを後から追いかけたイギリスは海賊の力によってスペインの財宝、植民都市を奪い取って、やがて世界を制覇するようになったそうです。近代の資本主義も、海賊による資源略奪が基礎にあったので成立したのです。このため海賊を英雄や冒険家として美化する風潮があったのです。それがやがて、勤惰的な貿易制度が確立していくと、逆に海賊が邪魔になり、まずは海賊を利用して海賊を取りしまり、ついには海賊を禁止するように変わっていきます。イギリスのスパイ戦の源流とか、スパイス争奪戦の具体例とか、イギリスはなぜコーヒーから紅茶にかわったかとか、知らない話が多くて面白い1冊です。

グランサコネ通信2011-14

グランサコネ通信2011-14

3月19日

1)17日の国連人権理事会は、普遍的定期審査UPRでした。対象はブルガリア、ホンデュラス、レバノン、マーシャル諸島、クロアチア、ジャマイカの6カ国。

レバノンはやはり注目を集めました。パレスチナ難民やイスラエルによる戦争など。作業部会での各国の発言でも、NGOの発言でも、例えば、Nahr el Baredキャンプの難民の移動の自由や労働権を認めよとか、国籍取得を認めよといった指摘が続きました。レバノン政府としては、それはレバノンの問題ではなく、イスラエルのせいで押付けられた問題なので、勧告には否定的でした。死刑廃止や死刑廃止条約批准も勧告されていますが、レバノン政府は拒否しています。

上記6カ国に対して数々の勧告が出されています。レバノンには120ほど、クロアチアには116、マーシャル諸島には少なくて38。各国は、受けた勧告についてそれぞれの対応を回答します。レバノンを例にすると、(1)メキシコやトルコが障害者権利条約を批准するように勧告したのに対して、レバノンは受け入れる方向と回答。

(2)ベルギーが拷問等の行為予防措置を勧告したのに対して、レバノンはそれは実施したと回答。

(3)ベルギーが1951年の難民条約と選択議定書を批准するように勧告したのに対して、レバノンは受け入れませんでした。

(4)イスラエルが安保理事会決議1559を即座に実施するように勧告しましたが、レバノンは拒否しました。理由は、第1に、それはUPRのテーマではないこと、第2に、勧告を出したのがイスラエルであること、です。

このように多くの勧告に対して、受け入れた、受け入れる、検討中、受け入れない、と回答をしていくのです。

前回書いたように、私たちは、日本政府が審査を受けた時に日本政府がどのように回答したかに焦点を当てました。しかし、それに続いて、他の各国の審査の時に日本政府がどのような発言をしたのか、どのような勧告をしたのかもチェックする必要があります。日本政府が人権理事会で、世界の人権状況の改善のために前向きの発言をしているのかどうか。また、もしも日本政府が他国に対してとてもいい発言をしていたら、私たちは「それを日本国内でも実施せよ」と主張できます。

というわけで、上記6各国について見ると、日本政府は、ホンデュラスに対して2つの勧告を出しました。ホンデュラスに対しては129の勧告が出ていて、そのうち2つが日本です。1つは「女性と子どもを暴力から保護する現在の措置を続け、促進すること。警察の訓練と、ジェンダー・ユニットを発展させること」を勧告。もう1つは「人身売買被害者への支援を強化すること」を勧告です。どちらも、ホンデュラスは「すでにやっていることなので受け入れます」と表明。これだけ、です。本当にこれだけなのです、日本政府は。

他の5カ国に対して、日本政府は1つも勧告を出していません。1つも発言していません。

マーシャル諸島は、かつて日本の領土にした場所です。日系人がいますし、日系人大統領もいた国です。かつての宗主国として、責任ある発言をするべきところですが。

16日の6カ国に対して、日本はたった1つの勧告。17日の6カ国に対して2つの勧告。合計12カ国に対して1000以上の勧告が出ていますが、日本が出したのは全部で3つ。驚くべき少なさです。つまりほとんど沈黙しているのです。なんと素晴らしい謙虚さ。

2)立入勝義『ソーシャルメディア革命--「ソーシャル」の波が「マス」を飲み込む日』(DISCOVER、2011年)

在米のブログ作家による北米最新事情+日本の今後。フェイスブック、ツイッター、ブログなどソーシャルメディアを活用したマーケティングの本、つまり、実践的ビジネス本。ブログでお金儲けしたい人のための本です。こういう本はあまり読まないのですが、あまりに無知でも困るので一応読んでみました。

ソーシャルメディア、モキュメンタリー、グーグルゾン、クラウドサービス、ソーシャルノミクス・・・・・・とカタカナ語がえんえんと続き、読むのに一苦労。話が分からないところがいくつもありました。それでもおおまかな流れは理解できたような気が。日本は果たしてこのまま「ガラパゴス」の道を歩むのか。それとも世界的傾向(=アメリカ化)できるのかが主題となっていて、小見出しは「ガラパゴスは大陸の夢を見るか?」。日本がなぜ立ち遅れているのかの分析は結構理解しやすかったです。

著者によると、「日本でソーシャルメディアが立ち上がらない10の理由」は、既存の大手メディアの影響力が強すぎる、人権意識が低い、政治とジャーナリズムへの関心度が低い、個性を認めない「出る杭を打つ」文化の存在、自営・独立をする人が少ない、非営利団体に対する支援と理解の欠如、語学力の低さと国際意識の欠如、PV神話が根深い、先駆者としての匿名掲示板の存在、芸能ネタへの偏り、だそうです。

アメリカ人の人権意識が高くて、日本人の人権意識が低い、というのは正確とは思えません。アメリカ人は、「人権意識」ではなく「自分の権利意識」だけが高いのであって、他者の人権など全く省みない点では世界有数ですから。

とはいえ、本書の文脈で、日本人の人権意識や社会性の弱さが指摘されているのは、それなりに納得できます。だから2ちゃんねるには適合しても、ソーシャルメディアには向かないというのは、信じたくはありませんが。

グランサコネ通信2011-13

グランサコネ通信2011-13

3月17日

先週末はベルンのパウル・クレー・センターに行ってきました。2005年にセンターができて以来、年に2回は通っています。今春は「パウル・クレーとフランツ・マルク展」が開催されていました。画家として出立しようとしていた時期にひじょうに親しく、影響を与え合った2人です。クレーからマルクへのはがき、マルク夫人からクレー夫人へのはがきなどから、2人の作品まで、見ごたえのある展示です。昨夏の「クレーとピカソ展」ほど大々的でないのは、マルクが1916年に若くして亡くなったため、作品数が少ないため。

1)14日の人権理事会

14日は、議題4の朝鮮、ミャンマー、コートジボアール、リビアの人権状況をめぐる議論が中心でした。その前に議題3の残りが行われ、一番最後に発言したのがスペイン国際人権法協会のダヴィド・フェルナンデス・プヤナ氏でした。テーマは人民の平和への権利です。世界の903のNGOの協力を得ていること、2010年12月にサンティアゴ・デ・コンポステラで平和会議を行いサンティアゴ宣言をまとめたこと、2011年1月の人権理事会諮問委員会で議論が行われ平和への宣言草案づくりが始まったことなどを確認した上で、平和への権利は個人的権利であるとともに集団的次元があること、平和への権利は生命権や自由権の基礎であること、平和の教育が重要であることなどを強調しました。

今回平和への権利での発言は、国際人権活動日本委員会とスペイン国際人権法協会の2つだけでした。昨年8月の諮問委員会では5つの発言がありました。しかし、毎回みんながジュネーヴにやってくるというわけにはいきません。

15日の人権理事会では、ゲイ・マクドウーガル「少数者の権利についての特別報告者」の6回目、最後の報告書をめぐる議論、続いて社会フォーラム、少数者フォーラム、人権教育などの報告書の紹介と議論がありました。

ボリビア政府の発言の際に、エボ・モラレス大統領の文書が配布されました。一つは「自然、森、先住民族は売り物ではない」という文書、もう一つは「母なる地球の権利の世界宣言草案」というものです。日付は付されていません。今回の人権理事会のために作成されたわけではないのかもしれませんが、ともかくボリビア政府提案として、2つの文書が配布されました。「母なる地球は生命体である」「母なる地球はかけがえのない、分割できないコミュニティである」「すべての生命は、母なる地球の一部として、その関係性によって規定される」といった条文が列挙されています。

16日の人権理事会は普遍的定期審査UPRでした。対象は、リベリア、マラウィ、モンゴル、パナマ、モルディヴ、アンドラです。

パナマ、モルディヴ、アンドラは軍隊のない国家ですが、審議においてそのことは話題になりません。審議している各国には軍隊がありますから、わざわざ軍隊がないことについて発言などしません。

事前に作業部会が行われ、6カ国それぞれの審議で、トロイカと呼ばれる担当国やその他の諸国による質問や問題点の指摘、そして最後に勧告がなされ、その報告書を受けて、16日の審議です。基本的にはリベリア以下の6カ国が、勧告を受け入れるか、拒否するかを表明していき、関連発言としてNGOも若干発言しています。

2008年6月でしたか、日本政府がUPRで取り上げられた時に、トロイカやその他の各国からの勧告に注目しましたが、その後は、日本の審査ではないためきちんと見ていませんでした。しかし、今頃になって重要なことに気づきました。日本がどのように審査され、どのような勧告を受けたかももちろん重要ですが、それに加えて、しっかりチェックしなければならないことは、日本政府が他の各国の人権状況についてどのような発言をしたか、何を勧告したかです。この点をチェックする態勢を組む必要があります。誰かこうした観点でウオッチしてきた人がいればいいのですが。

今回の6カ国についてみると、作業部会段階で日本政府の勧告はたった1つです。モンゴルに対して、子どもを性的搾取からの保護が適切にできていないのでできる限り必要な措置を取るように勧告しています。非常に少ない。つまり、日本は他国の人権状況の審査に加わってもほとんど沈黙しているのです。自国で人権状況を改善する努力をきちんとしていない国家は、他国の人権について口を出せないからです。

モンゴルに対しては、全部で118の勧告が出ています。フランスは強制失踪条約を批准するように勧告。メキシコは拷問等禁止条約を批准するように勧告。ニュージーランドは拷問等禁止条約選択議定書を批准するように勧告。モンゴルに対して勧告を出した国家の名前だけ列挙すると、他にスペイン、アルゼンチン、イタリア、ブラジル、スウェーデン、ポルトガル、オーストラリア、カナダ、スロヴァキア、スイス、マレーシア、ハンガリー、イギリス、ガーナ、オランダ、インドネシア、ポーランド、イラン、アルジェリア、中国、韓国、ノルウイェー、カザフスタン、スロヴェニア、アメリカ、ウクライナ、キューバ、ドイツ、アゼルバイジャン、チェコ、バングラデシュ、パキスタン、トルコと続きます。このうち1つしか勧告を出していないのはトルコと日本だけです。ノルウェーは12の勧告。カナダは8つの勧告。

6カ国それぞれに100以上の勧告。つまり600以上の勧告。そのうち日本が出したのはたった1つ。自分がちゃんとしていないと他国に勧告を出せません。そのことが実に明瞭に表れています。

過去の例もチェックしてみる必要があります。

La Nomade, Geneve, 2009.

2)宮下誠『越境する天使 パウル・クレー』(春秋社、2009年)

ジュネーヴ-ベルンの往復の車中で読みました。著者の絶筆です。『逸脱する絵画』『迷走する音楽』『ゲルニカ』『カラヤンがクラシックを殺した』の著者で、国学院大学教授でしたが、47歳で亡くなった著者のクレー研究。読むのは2度目です。表紙は「新しい天使」--これはあのベンヤミンの有名な言葉によって「歴史の天使」とも呼ばれています--ベンヤミンの解釈が秀逸であるにしても、クレー自身の作品世界の中で読み解くべきことはいうまでもありません。

「此岸でわたしを捕まえることはできない。

わたしは好んで死者たちと、

未だ生まれざるものとの領域に住みついているから。

創造の核心に近づいているような気もするが、

まだまだだ。

わたしからは暖かさが放出されているのか? クールなのか??

彼岸ではいかなるものも問題にはならない。遥か彼方でこそ

わたしは最も敬虔になれる。此岸ではわたしはおうおう

底意地の悪いものとなる。ことは微妙なのだ。

宗教家たちの敬虔さでは全くもっと不十分。

律法学者の説教にはいらだつばかりだ。」

           --パウル・クレー

子どもっぽい絵を描く、誰にも人気のクレーという一般的理解は完全に間違いであり、クレーは、欺き、隠蔽し、迂回し、先回りし、闘いつづけた「底意地の悪い」画家です。

「世界の悪意に対して命懸けで抵抗し、一歩間違えれば奈落の底に真っ逆さまに落ちてゆくような、危険に満ちた世界の遥か上方に掛かった、細く、今にも切れそうで、撓んでもいる一本の、蜘蛛の糸のようなロープの上を、絶妙のバランスを採りながら、細心の注意で一歩ずつ、ゆっくりと進んでゆく、画家自身が好んで描いた綱渡り師のような足捌きで彼は20世紀前半を生き抜いた。」

3)高澤秀次『文学者たちの大逆事件と韓国併合』(平凡社新書、2010年)

大逆事件と韓国併合が、日本文学にいかなる影響を与えたのかというテーマを、佐藤春夫、与謝野鉄幹、夏目漱石、永井荷風、谷崎潤一郎、小林勝、中上健次、金時鐘、梁石日、三島由紀夫、大江健三郎などに即して検討しています。石川啄木が取り上げられていないのは、これまで大逆事件と文学というと啄木が注目されてきたので、あえて他の作家を中心にしています。大逆事件と啄木というテーマがそれほど深められてきたとは私には思えませんが(だから私は「非国民がやってきた!」で今も啄木を取り上げ続けています)。

それはともかく、本書の特徴は、日本文学を語る際に、植民地文学や在日文学を除外せず、正面から取り上げていることです。第4章の「植民地と<日本人>」というテーマでは小林勝の植民地の記憶をめぐる小説に着目しています。第5章では「大逆事件と被差別部落」、第7章「戦後に<在日>する根拠とは何か」、そして第8章「北海道という「植民地」の発見」をそれぞれ論じています。これまでに書かれた膨大な文学論が、日本、日本人、東京中心の「自覚なき植民者」の文学論であったのに対して、高澤は、植民地、在日、被差別部落、北海道に焦点を当てています。このことだけでも大いに高く評価できます。沖縄や台湾や南方の植民地は取り上げられていませんが、1冊の新書では限界があるためやむをえません。

「植民地」北海道の取り上げ方も納得できるものです。もっとも、内容を論じているのは三島由紀夫の「夏子の冒険」と村上春樹の「羊をめぐる冒険」だけです。他には、国木田独歩「空知川の岸辺」、有島武郎「カインの末裔」、本庄睦男「石狩川」、船山馨「石狩平野」、原田康子「挽歌」「海霧」、池澤夏樹「静かな大地」などの名前があがっているだけです。北方文学の系譜をおさえていません。そこまで期待するのは過大な要求でしょうか。また、小林多喜二の位置づけも不明ですし、戦後の、北海道出身で北海道を舞台にした作品を数多く発表した夏堀正元の作品群、特に「渦の真空」を取り上げないのはどうかと思いますが。

グランサコネ通信2011-12

グランサコネ通信2011-12

3月16日

3月15日、ジュネーヴで開催中国連人権理事会第16会期において、NGO国際人権活動日本委員会、朝鮮学校高校無償化からの除外問題について発言しました

THE JAPANESE WORKERSCOMMITTEE FOR HUMAN RIGHTS

2-33-10 Minami-Otsuka, Toshima-ku, Tokyo, JAPAN

tel:+81-3-3943-2420 fax:+81-3-5395-3240 e-mail: hmrights@mx16.freecom.ne.jp

Human Rights Council

16 session

Item 5

15 March 2011

Korean Minorities in Japan

Statement by Mr. Akira MAEDA

Professor of Tokyo Zokei University

on behalf of the

Japanese WorkersCommittee for Human Rights (JWCHR)

Geneva, 15 March 2011

Mr. President

I thank to you and all persons here for your support, sympathy and solidarity to Japanese people suffering from the earthquake and the following tsunami—without electricity, food and drinking water.

We have reported the situation of minorities in Japan to former Commission on Human Rights and Human Rights Council for more than 10 years. Unfortunately the situation of minorities in Japan, in short, has grown worse for 10 years. We welcome the report and presentation of Forum on Minorities Issue by Ms. Gay McDougal. In this regard, we would like to introduce you the new violation of human rights of minorities by Japanese Government.

Committee on Elimination of Racial Discrimination recommended in its concluding observations (CERD/C/JPN/CO/3-6) in 11 March 2010 to the Japanese government to stop the discriminatory policy against Korean Minorities in Japan. Committee on Right of Child followed it in 20 June 2010 (CRC/C/JPN/CO/3).

Nevertheless, Government of Japan has continued to exclude only Korean minorities from “Free High School Tuition Bill,” whose purpose is to alleviate the financial burdens of high school education of household. Surprisingly the discriminatory treatment was ordered directly by Prime Minister, Mr. Kan himself. It can be said that this is absolute racial discrimination and political violence

Korean schools are facing the financial difficulty under the discriminative policy of Japanese government such as non-governmental aid or non-adaptation of exemption of taxation on donation to school. On such problem, Human Rights Committee made recommendation in the past (for example para 31, CCPR/C/JPN/CO/5.) .The financial burden of Korean minorities is five times than that of Japanese.

In addition, Korean minorities are subjected to attack by Japanese civilian as often as news of DPR Korea is excessively reported by Japanese mass media. Korean minorities cannot go out wearing their own traditional wear because of fear of attacking. Although hate crimes has increased for dacade, the government has taken no measures to prevent hate crimes. How can this crazy situation be allowed in Japan?

The Asahi Shimbun, Feb. 24, 2010

EDITORIAL: Free school education

There is no reason to exclude Korean Students.

Just before Diet deliberations begin on a bill to make high school education tuition-free, Hiroshi Nakai, state minister in charge of the abduction issue, asked education minister Tatsuo Kawabata to exclude chosen gakko schools for Korean children in Japan.

North Korea has been developing nuclear arms and missiles, defying international criticism and sanctions. The country has also refused to cooperate with Japan in resolving the issue of Japanese citizens abducted by North Korean agents.

The reason behind Nakai's request appears to be that chosen gakko are under the influence of the General Association of Korean Residents in Japan (Chongryon), which supports North Korea.

Japan has good reason to take a tough stance toward North Korea and exert the necessary diplomatic pressure. But should education for Korean children in Japan be considered from the same point of view?

Of chosen gakko around the country, 10 are kokyu gakko, the equivalent of high schools. Nearly 2,000 children attend these schools.

Chosen gakko originated in schools that Koreans established to reinstate the use of their native language after the end of World War II.

There was a period when these schools conducted strict ideological education after they came under Pyongyang's influence through Chongryon, founded in 1955.

The content of education, however, has shifted dramatically through generational changes among Korean residents.

Most of the classes are given in Korean. But the curriculum is largely in line with the education ministry's guidelines for Japanese schools, except for some courses, such as the one on Korean history.

A growing number of Koreans send their children to chosen gakko to cherish their own language and culture, even though they do not support the North Korean regime.

There used to be portraits of Kim Il Sung, North Korea's founder, and Kim Jong Il, his son and the current leader, in all chosen gakko classrooms.

In response to requests from parents, however, the portraits have been removed from schools that correspond to elementary and junior high schools.

Such a trend is expected to only grow stronger.

Chosen gakko are all financially strained. The central government provides no financial aid, although the schools receive local government subsidies.

Parents bear a heavy financial burden as they are asked to make donations on top of the annual tuition of about 400,000 yen ($4,400).

With the free tuition bill, the government aims to create a society in which all high school students can concentrate on studies without worrying about financing.

The bill, approved by the Cabinet last month, covers not only public and private high schools and technical colleges but also various institutions with comparable high school curriculums.

It was assumed that the latter category would include schools for Brazilians, Chinese and Koreans.

Guaranteeing all children the right to learn, including those with foreign citizenship, is a basic principle of the Democratic Party of Japan's education policy. Excluding chosen gakko students, who are members of Japanese society, from the initiative would go against the principle.

On Tuesday, Kawabata said neither diplomatic considerations nor the content of education would be a factor in deciding on eligibility for the program.

We suggest that Nakai visit a chosen gakko with Kawabata.

He would find that students are no different from their counterparts at Japanese schools. They aspire to go on to university, take part in sports and worry about their future.

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グランサコネ通信2011-11

グランサコネ通信2011-11

3月14日

東日本大地震のことで、家族は大丈夫か、と聞かれます。仙台に友人が居るが、どうなっているかはわからないと答えています。京都に友人が居るが大丈夫かといった質問もあり、京都は被災地から遠い、と説明しています。福島原発の爆発映像はやはり衝撃的だったようです。

インターナショナル・ヘラルド・トリビューンも一面トップで報じています。一面と五面に大きな写真つき。日本がこんなに大きく報道されるのは珍しい。

ジュネーヴで開催中の国連人権理事会16会期は、3月9日が子どもの権利の集中討論、10日が人権活動家の権利(人権活動家やジャーナリストが襲撃される問題など)、11日午前がテロリズムと人質問題でした。11日午後は議題3の基本的人権の一般討論でした。

私は3日から9日まで一時帰国していましたが、9日の深夜にこちらに戻りました。10日午後には発言の順番が回ってくる見込みだったので、朝からずっと待っていましたが、審議が遅れて進行していたので、今日はもう回ってこないかなと思いコーヒーを飲みに出がけに、出入口のところで、知り合いに声をかけられて、JWCHRの順番が前の方になっていたよ、と教わりました。慌てて確認したところ、まもなくまわってくることがわかりました。私の前の予定だったNGOが15団体ほど、後ろに回ったり、キャンセルしたりで、まもなく私の順番になるところだったのです。予告なしで順番が変わるので時々チェックしないと危ないのです。コーヒーを飲みに行っていたら、発言できないところでした。

1)人権活動家の権利

このテーマはかなり前からいろんな形で取り上げられてきました。古くは赤十字を初めとする医療関係者、さらには人道支援スタッフ、ジャーナリストなどが、誘拐、暗殺、人質などにされてきたからです。マーガレット・セカギャ「人権活動家の権利特別報告者」が、第3回報告書で女性人権活動家の人権を中心に報告したので、各国政府もNGOも、女性の権利問題に絡めて発言していました。約50カ国の発言がありましたが、日本政府は発言しませんでした。アメリカは北アフリカにおける人権状況について発言していましたが、内容が人権k集うかの権利からやや外れていました。おもしろかったのは、アメリカの次がキューバで、アメリカにつかまっているキューバ人のことを取り上げ、「アメリカが許すテロリストは人権活動家であり、アメリカが許さない人権活動家はテロリストとされる」と批判していたことです。

2)テロリストの人質問題

昨秋の人権理事会決議で、今回このテーマについて議論することが決まっていたそうで、最初に、カン・キュンファ人権高等弁務官代理が、人質をとるのは犯罪であり、人質禁止条約に違反する、国際人道法にも反する、国際刑事裁判所規程にも戦争犯罪と規定されているといった導入発言をしていました。人質発生の防止や、被害者の救済・補償にも触れていました。続いて、マーティン・シャイニン「テロとの戦いにおける人権特別報告者」、カメル・レザグ・バラ・アルジェリア大統領顧問、セシリア・キスンビン・フィリピン国家人権委員会コミッショナーなどが基調発言。20カ国ほどが発言。日本政府は発言しませんでした。

ちょっと流れがわかりませんでした。もともと、人権委員会の終わりごろから、アメリカとEUが中心に「悪の枢軸」叩きと、アフガン戦争、イラク戦争がありました。西側は、アフガンやイラクにおける人権問題を取り上げてきました。NGOは、アフガンやイラクにおけるアメリカによる人権侵害を訴えてきました。その対立の中で、アメリカと各国政府によるテロリスト対策と称する拉致と拷問が発覚したことによって、「テロとの戦いにおける人権特別報告者」ができました。「テロとの戦い」を理由としても誘拐や拷問は許されないからです。こうした流れとは別に、テロリスト側による人質作戦を槍玉に挙げるのが今回のテーマになっていたようです。

Tra La Terra e il Cielo, La Meridiana, Barbera d'Asti Superione 2005.

3)羽生善治『大局観--自分と闘って負けない心』(角川ONEテーマ、2011)

同じ新書で先に『決断力』があり、やはり将棋の谷川浩司『集中力』も出ています。

「勝負の手を読む力は若いときが上だが、棋士は年齢を重ねるごとに大局観を身につけ、『いかに読まないか』の心境となる。それは年齢とともに熟し、若き日の自分とも闘える不思議な力を与えてくれるのである。」

天才にしては平凡な話が多いのですが、だからこそ前著は売れたのでしょう。本書でも、100キロのマラソンは大変だが、毎日1キロなら全部で100キロ走れるといったレベルの話が出てきます。毎日毎日の積み重ねこそが天才の秘密であり、決して手抜きしないのです。

4)高橋敏夫『井上ひさし 希望としての笑い』(角川SSC新書、2010)

著者は文芸評論家・早稲田大学教授。2010年4月9日に井上ひさしが亡くなったので急遽書かれた本です。40年にわたる井上ひさしの笑いの世界をコンパクトにまとめて、とてもわかりやすく整理しています。

「希望としての笑い--井上ひさしが求めたもの」/「同時代と共振し、同時代を一歩踏み出す」/「言語遊戯者の騒乱へ、転倒へ、覚醒へ」/「言葉から集団、国家までを視野に入れる」/「フツー人の戦後史と、これからのたたかい方」/「世界をゆさぶり、笑いをもたらす表現のたえまなき模索」/「ふたたび希望としての笑い--井上ひさしから引き継ぐ」。

新書なので、テーマをかなり絞ったとのことで、それだけに圧縮されていて、いい入門書になっています。

評伝ではなく、作品をテーマ別に。作品中心でも、時期区分をするか、テーマ分けするかでかなり違うと思いますが、本書はテーマごと。小説、演劇、エッセイとの分類もしていません。他の方法はないだろうかと考えながら読みました、私なりの井上ひさし論のために。