Wednesday, September 15, 2010

「慰安婦」問題の国際的動向

『救援』496号(2010年8月)

「慰安婦」問題の国際的動向

 いまさら驚くことではないが、日本軍「慰安婦」問題をめぐる日本メディアの対応は異様である。国際ニュースを遮断し、国内に知らせないことを目的としているようだ。六月一八日、アムネスティ・インターナショナルは「日本――ILO、日本軍性奴隷制のサバイバーのための正義の実現を追求せず」という国際ニュースを発したが、マスメディアは無視した。一つのNGOのニュースを取り上げなくても仕方がないというのは理由にならない。アムネスティ・インターナショナルはもっとも著名で信頼されている国際NGOであり、他の問題では日本メディアも重要視してきた。六月一一日、子どもの権利条約に基づいて設置された子どもの権利委員会が、日本政府報告書の審査結果として、歴史教科書の記述が不十分であるという勧告を出したが、これもマスメディアはほとんど報じていない(前田「子どもの権利委員会と日本」『統一評論』八月号参照)。

人権高等弁務官

 五月一四日、国連ニュース速報は、日本滞在中のナヴィ・ピレイ国連人権高等弁務官の動向を伝えた。ピレイ人権高等弁務官は、移住者、人身売買と闘う方法、死刑などに関連して、国際社会で影響力の大きい日本が持つ潜在的な力を強調したという。国連ニュースによると、人権高等弁務官は、独立の国内人権機関を設置し、かつ国内レベルで救済が得られなかった場合に国際人権機関に申立てることを、日本の市民に許す「個人通報」制度を批准するとの日本政府の公約に特に留意した。人権高等弁務官は、新政権のもとで死刑執行がなされていないことに意を強くしていると述べ、日本がもう一歩進めて、世界的な流れに沿って死刑執行猶予措置をとる方向に向かうよう希望すると述べた。

 国連ニュースによると、さらに、人権高等弁務官は、「慰安婦」問題について、何千という戦時性奴隷制被害者に対して謝罪かつ補償し、最終的な解決を実現するよう日本政府に訴えた。「これまで中途半端な対応が多すぎたので、被害者の満足が得られなかった」、「新政権は、悲惨な過去を清算するだけでなく、これを地域の他の諸国に対して肯定的な模範を示す機会とすることができる」と述べたという。

 しかし、マスメディアはごく一部の情報しか伝えていない。NGOがネット上で関連情報を流したが、一般には知られていない。「慰安婦」問題が国際社会に報告されたのは、一九九二年二月の国連人権理事会であった。それ以後、毎年のように国際的に取り上げられてきたが、国連事務次長に相当する人権高等弁務官が「慰安婦」問題に言及したのは初めてのことである。それでもマスメディアは情報を隠蔽する。

人権理事会

 六月七日、ジュネーヴの国連欧州本部で開催中の国連人権理事会において、ラシダ・マンジョー「女性に対する暴力特別報告者」が、最新報告書(A/HRC/14/22)のプレゼンテーションを行った。今回、マンジョー特別報告者は、被害者救済に焦点を絞った報告書をまとめ、その中で「慰安婦」問題を取り上げた。武力紛争における女性に対する暴力被害者に対する補償、リハビリテーション、再統合、象徴的認知、再発防止保障などについて検討した上で、次のように述べている。

「個別事件について女性への補償を求める、よく組織され、よく記録された運動が、いわゆる『慰安婦』のための運動である。一九八〇年代以来、被害者たちは証言を行い、国際世論に訴え、公的謝罪と補償を求めてきた。被害者たちは、公的支援の偽装を不適切であるとして拒否し、公式の謝罪と、社会経済的ニーズによる福祉的援助よりも公的基金による個人補償を強調してきた。性犯罪被害者として、彼女たちは、公式謝罪と国家責任の公的認知のない経済補償を受け取りたくないのである。」

これを受けて、韓国政府が次のように発言した。特別報告者は、被害者救済の権利の概念と実践例をまとめている。特別報告者は、国際人権原則に基づいて被害者救済を行うべき国家の責任に注意を喚起している。韓国政府は、特別報告者が第二次大戦時における「慰安婦」問題に言及したことを歓迎する。この問題は関係政府によって適切に扱われてこなかったので、韓国政府は日本政府に、特別報告者の勧告に応答して、象徴的認知を行い、被害者に対して実質的救済を行う適切な措置をとるよう呼びかける。戦争や武力紛争において女性に対して繰り返されてきた暴力は、人権の基本的侵害であり、人間の尊厳への挑戦である。その重大性にもかかわらず問題が未解決のままであり、国際社会の関心事項となっている。

これに対して、日本政府が次のように発言した。日本政府は一九九三年八月に調査結果を公表し、多くの女性の名誉と尊厳を損なったことを認め、謝罪を表明した。政府と日本国民は共同でこの問題を討議し、一九九五年、アジア女性基金を設立し、生存女性に支援金を渡し、住宅プログラムや医療支援を行った。首相から誠実な謝罪と遺憾の意を表明する手紙も届けた。日本政府は道義的責任に心を痛め、誠実に向き合っている。

韓国政府が再び発言した。韓国政府は、日本政府が以前行った言明に応答することを望む。補償がなされる必要がある。女性差別撤廃委員会も、最近、この問題が未解決であると指摘した。韓国政府は、日本政府がこの問題を至急取り扱うよう求める。

日本政府がさらに次のように発言した。日本政府は、「慰安婦」問題が多くの女性の名誉と尊厳をひどく傷つけたことを認めた上で、誠実な遺憾の意を表明し、謝罪した。補償、財産その他の第二次大戦に関する請求権については、前に述べたので繰り返さない。 

女性に対する暴力特別報告者は、一九九五年からラディカ・クマラスワミ(スリランカ)が二〇〇三年まで担当し、一九九六年の「日本軍慰安婦報告書」において有名な六項目勧告を出したのをはじめ数回にわたって言及した。「慰安婦」問題をめぐる議論は、クマラスワミ報告書、一九九八年のゲイ・マクドゥーガル「戦時性奴隷制」報告書で、すでに決着がついていた。その後も、ILO(国際労働機関)、自由権規約委員会、社会権規約委員会、拷問禁止委員会、女性差別撤廃委員会、国連人権理事会の普遍的定期審査において、日本政府に対して解決を求める勧告が続いた。さらにアメリカ、カナダ、オランダおよびEUの議会も決議を続けた。法的責任に関する議論において、クマラスワミ勧告以後十数年にわたって、日本政府が国際社会の勧告から遁走を続けている。

マスメディアが伝えないので、多くの日本国民がこの事実を十分に知らずにいる。全国各地の自治体においても約三〇ヶ所で解決を求める決議が出ているのに、マスメディアはその流れを堰き止める役割を果たしている。