Sunday, November 15, 2009

代用監獄アンケート結果(03)

救援467号(2008年3月号)

代用監獄実態に関するアンケート調査結果(三)

弾圧・報復・侮辱

 捜査官による嫌がらせについては、取調べそのものにおける暴言、罵声、長時間取調べなどが指摘されるとともに、体調不良にさせておいていじめる例も見られる。

「発熱して入院したら、病院まで取調官がきて、『そのまま死んでくれ』としつこく言われた。検事は、妻に私が浮気して女に金を使っていると嘘を言っていた。知り合いの暴力団員らにガサを入れたり、何回も呼び出して、『お前が恨まれるようにしてやる』『お前の家族をヤクザに襲わせる』と何度となく言われた」(愛知県名古屋南署、〇三年二月~七月)

被害者や関係者に恨まれるように仕向け、家族が襲われるなどと不安にさせるのも、取調べ目的であると同時に弾圧や報復の手口である。

「『マスコミは怖いぞ。被害者がマスコミ通じてお前の実家の住所を知ったら実家へ押しかけるぞ』と脅し、『喋れ』と耳元で怒鳴りまくる。取調官が使う言葉は『キチガイ。おし。ツンボ。カタワ。ゴキブリ。クズ。ダニ』」(福岡県久留米署、〇二年)

差別的な言葉がふんだんに用いられる。前号で紹介した「お前は麻原だ!」、「人間以下だな、外道だ、お前みたいな奴は死んでしまえ」なども、人格を否定し、貶めることによって精神状態を悪化させ、不安定な心理につけ込んで自白を引き出すためである。その意味では、取調べは最初から弾圧・報復・侮辱によって成り立っている。

「手帳の中から友人や仕事のお客さんらをコピーして刑事が電話したり、呼び出したりした。当時通っていた病院から『通院拒否。刑事から処方をとめられている』といわれ、権力で投薬ができないようにされ、転院せざるをえないようにされた。留置場ではトイレに男性刑事がついてきて、隣のトイレに入られ音を聞かれ、調書に『排尿量は普通だった』と書かれた。『立ちションせえへんのか』などセクハラが多かった。排尿障害になり、ネフローゼになった」(関西空港署、〇一年八月~一一月)

 家族関係や友人関係を破壊し、被疑者に孤立感をもたせるのも同じ目的である。女性に対するセクシュアル・ハラスメントは数多いと思われる。今回のアンケートでは女性の回答は一通のみであるが、かつて手塚千砂子編著『留置場・女たちの告発』(一九八九年)、同『警察官の性暴力』(一九九〇年)、前田朗監修『劇画代用監獄』(いずれも三一書房、一九九三年)などが指摘した問題である。

取調べの可視化

 一月二四日、警察庁は「取調べ適正化指針」を公表した。昨年の志布志選挙違反冤罪や富山強姦冤罪を受けて検討した結果である。取調べに対する監督の強化を掲げ、捜査部門以外の部門によるチェックをめざすという。具体的な監督対象行為としては、①被疑者の身体に接触すること、②直接又は間接的に有形力を行使すること、③殊更不安を覚えさせ、又は困惑させるような言動をすること、④一定の動作又は姿勢をとるよう強く要求すること、⑤便宜を供与し、又は供与することを申し出、若しくは約束すること、⑥被疑者の尊厳を著しく害するような言動をすること、などである。

 こうした行為、つまり拷問その他の非人間的な取り扱いがなされてきたことを間接的に認めたことになる。これまで十分に監督してこなかったことも。だが、この程度の監督では到底不十分であり、指針の賞味期限は一日しかないだろう。

「代監は冤罪づくりのシステムです。信じられないかもしれませんが、刑事からの差し入れのジュースやお菓子で自白したり、嘘を言う奴もいます。買えないので苦しいのです。否認するとタバコは吸えなくされます。言うとおりに喋れば吸わせてくれます。私の事件では捜査官が証拠を捏造しました。しかし、裁判官は捏造と知りつつ証拠から除外せず判決を書きました。冤罪の一番の問題は検察よりも、すぐ有罪にする裁判官だと思います」(名古屋南署、〇三年二月~七月)

 「代監は自白の強要、拷問、偽計の取調べに用いる所です。私は拘置所にいたのですが、留置場に移管され、偽計により事実と異なる事を認めさせられました。一審では、認定に相反する証拠まで、検事の申立てだから両方とも信用できるとされました。代監は冤罪事件を創ります。拘置所は一応他人の目があるので、暴行とかできないし、食べ物でイジメル事もできないから虚偽自白させられる事も少ない」(名古屋中署、〇二年九月~〇三年)

「否認していたので、体調不良を無視され、他の収容者よりも差別されていました。その中で数人の留置担当者はいろいろと個人的に世話をしてくれました。代監は暴力的な密室です。脅迫的な言葉と罵声を浴びせられたら内容のない虚偽の自白になってしまうのです。密室取調べがどのようなものか、一般的には知られていませんから、捜査官の思うままに事が進むのです。被疑者の拘禁場所ではないです。人間性を改悪・剥奪する場所です」(岡山西署、〇五年八月~〇六年一〇月)

 他方、拘置所より留置場が快適となる場合もあるという。

「自分から望んで刑事や検事に頼み、求刑まで留置場にいたのです。否認する者にとっては不利でしょうが、私のように犯罪を認め争うことがない場合は、拘置所より留置場の方が規則が甘く勝手がきき過ごしやすいのです。もちろん刑事も追起訴があるので都合がいいのです。面会も時間は許される限りできるし、立会いなしもあります。面会したいから電話してくれと頼めばしてくれます。捜査官が一番嫌うのは否認されることです。この意識がなくならない限り代監はなくなりません。日弁連がどれだけ騒ごうが現場の体質が変わらない限りダメでしょう」(宮城県大和署、〇三年七月~〇四年三月)

これは⑤の便宜供与の裏返しである。当該被疑者に便宜供与しなくても、他の被疑者を優遇しているのを見せることで十分な効果を挙げることができる。この点だけから言っても、警察庁の指針は無意味である。長期間の身柄拘束、密室における支配と管理(身体、人格、あらゆる動作と状況への支配)のもと、自白を強要するのが現状である。取調べの可視化を本格的に検討するべきである。

代用監獄アンケート結果(02)

救援466号(2008年2月号)

代用監獄実態に関するアンケート調査結果(二)

取調べの状況

 取調べ状況も多様であるが、基本的に自白獲得目的なので、自白強要がなされる。脅迫、泣き落とし、暴力、偽計など、事件により、被疑者の態度や性格により使い分ける。大声で怒鳴る、机を叩く、蹴る、足を蹴る例も多い。非常に侮蔑的な言葉で貶める。親を引き合いに出して不安にさせる手口も常套手段である。

 「優しいふりをして、互いの親子の歳が近いので、取調官を親と思って全て話せ、息子と思って黙って聞いてやると言い、親子関係で嘘のないように誘導していく」が、他方で「『警察ナメとるんか~コラ~、痛い目にあわなわからんとか』『聞こえとるんかコラ~』と言い、机を蹴りあげる。また、『気違いの真似しよんか~』と足を蹴られた」(福岡県博多署、〇四年三月~五月)

 「警察はどなる、机を殴りつけるのは日常的で、意味もなく机をケリとばしたり、強く机を押して私の胸に当たるようにする」、「否認のたびに、『お前は麻原だ!嘘吐きの麻原と一緒に死刑になっちまえ』と毎回言われた。また、『お前の名前が悪い!だから親も悪い』と言われた」(愛知県名古屋南署、〇三年二月~七月)

 「否認したところ、いったん処分保留で釈放し、玄関前で別件により再逮捕、交通違反も起訴された。処分保留の事件も後日起訴された。徹底的に嫌がらせされた」(大阪南署、〇一年三月~四月)

 「検事が作文しちゃったことに話を合わせてくれと、なだめたり、すかしたりでした。私が応じなかったので、一日に一五時間以上のメシぬき、休みぬき、暴行で調べ、二ヵ月後の起訴まで無意味に勾留された」(千葉県松戸署、〇六年一一月~〇七年二月)

 「今日も同じ脅し、泣き落とし、途中で『部屋に帰る』といったが、帰してくれない。任意だから俺の自由だと思う。不当な取調べだ。『まわりの者が喋っている』と刑事は言う。『喋った者がおるなら逮捕すればいいじゃないか、いつでも逮捕しろ』と居直ると、今度は泣き落とし」、「『お前は他の者に迷惑をかけていいのか。人間以下だな、外道だ、お前みたいな奴は死んでしまえ』などと怒鳴る。死ねるものなら俺も死にたい。死んでやる。刑事が死ねというなら死んでやろう」、「お前が認めんならMもGも殺人の共犯者にしてしまうぞと脅され、調書に署名押印をさせられた。この指さえなかったら署名も押印もせずに済んだのに。刑事は汚い。脅しにのる俺の意志の弱さも情けない。もう精神的にまいった」(愛知県名古屋中署、〇二年九月~〇三年)

 「(共犯とされた妻が当初は否認していたが後に自白に転じたのは)連日過酷な取調べが行われたことが原因である。糖尿病、肝臓病、胃潰瘍などの持病があり、体調が十分でないにもかかわらず、連日取調べが行われた。病状はたちまち悪化してしまい、ついには、倒れてしまうという状況にまで至った。直ちに病院で診察を受けてしかるべきなのであるが、病院での治療を受けさせてもらえなかった」(福岡県折尾署、〇三年)

 「取調べはほとんどが『謝罪せよ、それから認めて反省せよ』の毎日。処分保留後は一ヶ月のうち二〇日は休みの状態。捜査が一時中断になったり、任意捜査になったり。一年二ヶ月留置されたが、数ヶ月は時間の浪費でした。何のための一時中断とか任意捜査なのか不可解でした」、「黙秘していると捜査員が勝手にしゃべっては、被疑者の答弁として『黙して語らず』と調書を作成していく」(岡山西署、〇五年八月~〇六年八月)

 「『お袋さんと約束したから必ずお前をやめさす。組織を抜けたら守ってやる』、『黙っていたら損ぞ、今日の調べは終わらない』、『親は近所を歩けんぞ、弟たちもお前が死んでくれたらいいと思とる』と転向強要」(福岡県久留米署、〇一年)

検事調べ

 検事調べについてもいくつか情報が寄せられた。

 「検事は、私が供述したことをわずかに聞いただけで、あとはその女性検事、自らワープロを操作し、パチパチと三〇分から四〇分ぐらいかけ、一切検察事務官に頼ることなく調書を作り上げた。私の口から出た言葉はほとんどなく、もうあらかじめ作っていたんだなとゆう調書でしたが事実とは違うとこは違うと意見し二箇所ほど訂正してもらいました」(東京都池袋署、〇五年六月~一一月)

 「警察の脅迫や暴力行為を弁護士に相談したら、申入書を検事に郵送。その旨で取調べ、検事が証拠隠滅をする調書を作成、指印は拒否したら、怒って居なくなり、勝手に取調べを終了し、調書を訂正しない」、 「検事は、暴力以外は何でもする」(博多署、〇四年三月~五月)

 過去には検事による拷問の事例もあったが、さすがにほとんどの検事は暴力を振るうわけではないだろう。「暴力以外は何でもする」とは名言ではないだろうか。

  「黙秘していると、『検察庁に挑戦的である。徹底的にやってやる』と、やってもいないのに窃盗が強盗に訴因変更された」、「A検事が、『十年ぐらいは辛抱してきなさい、接見禁止はとく』と約束しておきながら接見禁止にしたので、黙秘すると、後任のS検事に代わり、求刑を無期懲役にされた」(兵庫県須磨署、九八年)

 「事実調べがなく、転向強要一本やりであった。両親を持ち出して『親を見殺しにするのか。家に帰れ』。『主張は正しい。しかし、やり方においてあまりに過激で人を集められない。そこで行き詰ってますます過激になる。悪循環・自滅の道だ』。『組織のロボットにならず自分で主体的に考えてみろ』。『組織は老化しているばかりだ。君も六〇、七〇になって出てきたとしても何もできないぞ。一生を棒にふることになる』。『組織のことしか考えていない弁護士は解任しろ』。『転向者は勇気をもって幸福な人生をつかみとった』など、思い出すのもうんざり」(警視庁、八七年一〇月~一一月)。

 組織に関連する事件では、警察だけではなく、検事も加わって転向強要に励む。最近では立川反戦ビラ事件の刑事取調べにおける侮辱と転向強要が知られるが、この種の事案では同じことが続いているのであろう。

代用監獄アンケート結果(01)

救援465号(2008年 1月号)

代用監獄実態に関するアンケート調査結果(一)

アンケートの趣旨

 本紙二〇〇七年一〇月号本欄にて、代用監獄実態に関するアンケートへの協力を呼びかけた。二〇〇七年一二月二〇日現在、一五人から二二件の事例の情報が寄せられた。女性が一名で、残りは男性である。回答していただいた皆さんに感謝いたします。ご協力ありがとうございます。

 アンケートの趣旨は、代用監獄の機能を多面的に明らかにすることである。すなわち、①被疑者の逃走予防、証拠隠滅予防、②警察による被疑者取調べ、自白の強要、虚偽自白、③政治目的などによる弾圧や報復、④「改善更正」、転向強要、人格破壊。以上のように考えると、代用監獄が被疑者取調べ、自白強要のために活用されているのは事実であり、この点への批判は重要だが、弾圧、転向強要も無視してはならないと思われる。刑事法学では、逃走予防、被疑者取調べに限定した議論がなされてきた。実体的真実主義のゆきすぎをデュープロセスによって制約すると唱えてきたが、捜査の実態は実体的真実主義でさえないのではないか。

 かつて一九八〇年代に代監批判が盛り上がった時期、代監体験者の聞き取り調査が行われた。その後も、冤罪事件などで取調べや代監の実態が明らかにされてきた。しかし、論点がに絞られがちであった。

 今回のアンケートでは、次の情報を求めた。体験の時期、場所、留置担当官の言動に疑問点はなかったか、取調べにおける自白強要の有無・程度・手段、捜査機関に弾圧や報復の意図を感じたか、取調べ目的と関係のない侮辱行為、「代用監獄=裁判抜き刑罰執行」論について、その他関連する情報・意見。

 結論から言うと、多くの回答は、逮捕の不当性、取調べにおける脅迫、欺計、侮辱、自白強要を中心にしたもので、代用監獄の利用がその条件となっているというものである。代監だけを取り上げた批判はむしろ多くはない。弾圧や報復については関連する情報は多数あるが、それが主眼というわけではない。代監の条件、取調べ、自白強要、弾圧・報復が密接に結びついているからであろう。言うまでもなく、被疑事件の性質や、捜査協力の姿勢(自白か否認か)などにより相当異なるが。

 なお、刑事施設(拘置所、刑務所)における処遇や医療に関する情報も寄せられたが、その点は本紙の刑事施設医療に関する調査で扱われる。

 以下では寄せられた情報をもとに順次紹介していきたい。引用文は基本的に原文からの抜粋であるが、明らかな誤字は訂正した。

留置場の状況

 留置場の生活状況から始めよう。

 「留置場内の生活に関する規則があいまいであり、不当に思うことが多くあった。手紙を発信するまで、一週間~一〇日間かかる決済システム、速達による着信が着信後五日目ぐらいに交付されるなど」(宮城県大和署、〇三年七月~〇四年三月)。

 「差入品等も担当官によって変わる。妻が持ってきた単行本を三、四冊持って帰らせる。八月一八日から四月二日までいましたが、みそ汁は一度も出たことがなく、正月にカップヌードルをお願いしましたが、お湯をわかし入れるのが面倒で中止になった」(兵庫県須磨署、九八年八月~九九年四月)。

 暴行・傷害の訴えもある。

 「起床後、洗面所にて口をすすぎ水を飲んだだけで大声をはり上げ怒られ、言い返したら警察官ら三人、私に集団暴行を加え、歯が二本、身体に大怪我をさせられた。人権擁護委員会に告発するというと、逆に公務執行妨害、傷害の事件を捏造された。一切警察官に暴行等行っていないのに。怪我が元で救急車にて東京警察病院に運ばれたのですが、医師に身体の怪我、歯が折れていると言っているにもかかわらず、診断書にも一切記載がないのです。まったく出鱈目です」(東京都浅草署、〇四年七月)。

 取調べと連動する局面では次のような回答が目立つ。

 「留置担当官が刑事に漏洩しているみたいなので、『ボクは〇△□です』とウソを言ってみたら、次の日に刑事に『お前は〇△□なのか?』と言われた」(千葉県松戸署、〇六年一一月~〇七年二月)。

 「刑事が留置場に入って来て被疑者と話すなど規則に違反する言動が多く、月日を送るのに居辛い」(大阪南署、〇一年三月~四月)。

 「監視官の執拗な嫌がらせが半端ではなかった。眠らせない為に音などにより不眠状態にする。携帯電話を持ち込んで夜間に着信音をさせ、なかなか切らない。持ち込み禁止になっているのに、訴えても変わらなかった。医務は最悪で自費で市販薬を購入しないといけない。取調べ中に倒れたが、二〇分ほど房に入れられ仮病かどうか様子を見られていた。過食といわれたが、あの食事量でそれはない。拘置所に移監した際に八キロ減っていた。毎日下痢をしているのを知りながら、管理課は冷酷だった」(福岡県博多署、〇四年三月~五月)

 「夜勤の時、携帯でメールを打って遊んでいたり、マンガを読んでいたり、人が水を一杯くださいといっても知らんぷりです。捜査に協力する者は、飲食やたばこを吸わす面倒見を行っている。署長に、職員が朝の運動時に一緒にたばこを吸っていると告発したら、一切そんなことはないと言う」(東京都浅草署、〇四年七月)

 ここには医療の貧困問題も含まれているが、体調不良にしておいて取調べで自白を強要するが、逆に協力的な者にはたばこなど面倒見のパターンがある。

 数は少ないが次のような回答もあった。

 「どの被疑者に対しても公平に接していたし、特に問題となることは記憶にない」(兵庫県灘署、九八年五月~一一月)。

 「担当さんも、私が作られた事件にて入っているということを聞いていたらしく、いろいろと気を使ってくれていた。押送される時だったでしょうか、『あなたも被害者なんだろう?』と話しかけてきたり、少なくとも犯罪者という扱いをされていませんでした」(東京都池袋署、〇五年六月~一一月)。

代用監獄アンケート結果(00)

救援462号(2007年10月号)

代用監獄実態に関するアンケートにご協力を

代監批判の論点

  本年五月に公表された拷問禁止委員会の日本政府に対する勧告は、拷問の定義、代用監獄、取調べ、死刑など多くの問題について改善を求めるものであった(前田朗「拷問禁止委員会が日本に勧告」無罪!二六号)。拷問禁止委員会は、日本が代用監獄を利用していること、被拘禁者の手続保障が不十分であること、権利侵害が増大していること、無罪の推定、黙秘権、防御権が尊重されていないことを指摘している。拘置所よりも留置場収容が多いこと、捜査と留置の分離が不十分であること、留置場には適切な医療がないこと、起訴前拘禁が長いこと、起訴前拘禁に対する司法的統制が効果的でないこと、起訴前保釈制度がないことなど、日本の刑事司法が抱える数々の病理の改善を勧告している。

  これらはNGOによる情報提供を受けて、委員会で日本政府報告書を審議した結果として出された勧告である。NGO報告書には、代用監獄の処遇や取調べの実態についてさまざまな情報が掲載されている。

 本年二月二三日に鹿児島地裁で無罪判決の出た志布志事件では、「鹿児島県警の捜査は虚偽と不正、横暴と杜撰を極め、『デッチ上げ』という単語がこれほど当てはまる事例もそうは多くないように思える」(青木理「何から何までデタラメな県警の強圧的捜査」『週刊金曜日』六七〇号、以下の引用も同じ)と指摘されている。「『バカ、認めろ』『このウソつき野郎』『認めなければ親も子も逮捕だ』。気が遠くなるほど長時間の聴取で脅迫まがいの言辞と罵声を浴びせられ、捜査官たちは虚偽の自白を強要し続けた」と。

 志布志事件は冤罪だったから問題とされている。しかし、冤罪でなければ、よかったのだろうか。仮に後に真犯人であると判明したとしても、「取調べ」のあり方は無罪の推定に反し、防御権を侵害し、人格権をも侵害しているのではないか。代用監獄を利用した二四時間管理体制(あらゆる自由の剥奪)、長期の未決勾留(家族の破壊)、そして長時間に及ぶ暴力的な密室「取調べ」は、法が予定している取調べではなく、端的に拷問と呼ぶべきではないのか。その意味では(冤罪ではなくても)すべての事件において重大人権侵害が繰り返されてきたのではないか。

  最近、迎賓館横田事件の闘いの出版のために、「拷問大国から脱却するために」と題して次のように書いた。

 「代用監獄は、主に次のような機能を果たしてきた。①被疑者の逃走予防、証拠隠滅予防(ただし、それなら拘置所で足りる)、②警察による被疑者取調べ、自白の強要、虚偽自白、③政治目的などによる弾圧(最近は『国策捜査』と呼ばれることもある)や報復、④『改善更正』、転向強要、人格破壊。従来の代用監獄批判は②の問題点を取り上げてきたが、③④も考慮すれば、代用監獄の真の機能は『裁判抜き短期自由刑の執行』と見るのが正当であり、正当化の余地はない。」『未決勾留一六年』(近刊予定)

 同じことを一九年前には次のように書いた。

「代用監獄に象徴される拘禁二法とは、単に冤罪の温床になる反人権的悪法であるだけではなく、単に受刑者の自由を制限する施設管理法であるだけでもなく、そのいま一つの狙いが、労働・政治運動に襲いかかる治安立法にほかならないからである。代用監獄とは、被疑者の拘禁場所ではなく、被疑者の人間性剥奪の場であり、『裁判なき刑罰執行』の場である。警察によって反体制的とみなされた運動から狩り出された個人を恥ずかしめ、圧迫し、打ちのめすための場である。それは、異端排除による国民統合のシステムの要である。しばしばいわれる自白獲得すら、そこでは二の次となるであろう。労働・政治運動こそ、拘禁二法反対運動の主翼を担って闘うべきゆえんである。」(前田朗「拘禁二法反対運動に向けて」『思想運動』三八二号、一九八八年)。

アンケート協力依頼

代用監獄が被疑者取調べ、自白強要のために活用されているのは事実であり、この点への批判は欠かすことができないが、弾圧、転向強要も無視してはならないだろう。刑事訴訟法学の諸論文では、逃走予防、被疑者取調べに限定した議論がなされてきた。筆者の見解への賛同をほとんど見出すことができない。刑事訴訟法学では、実体的真実主義のゆきすぎをデュープロセスによって制約する論理が唱えられてきた。しかし、警察捜査の現実は実体的真実主義でさえないのではないか。

 かつて一九八〇年代に代監批判が盛り上がった時期、代監体験者の聞き取り調査が行われ、公表された。体験談を通じて、のみではなく、➂➃の側面もあると考えたのが右の引用文である。その後も、多くの冤罪事件などで取調べ批判、代監の実態が明らかにされてきた。拷問禁止委員会に提供された情報もそうした情報だ。しかし、冤罪の衝撃性が、論点をに絞ることにつながる傾向があったように思われる。実際には、➁➂➃は単純に区別できるのではなく、つねに同時並行でからみあっているのではないかと思うのだが、そう主張するための実証データがあまりない。

 そこで読者の中の代監体験者に次のアンケートにご協力いただきたい。

体験の時期(一九九〇年頃とか、二〇〇七年春などの記述)

場所(**警察署、あるいは**県内の警察署)

留置担当官の言動に疑問点はなかったか

取調べにおける自白強要の有無・程度・手段

捜査機関に弾圧や報復の意図を感じたか(具体例を)

取調べ目的と関係のない侮辱行為などはあったか

「代用監獄=裁判抜き刑罰執行」論についてどう考えるか

その他関連する情報または意見

  以上について情報をお寄せいただけると幸いである。結果は本紙にて報告したい。その際、個人情報は公表しない。また他の目的に使用することはしない。

送付先192-0992 東京都八王子市宇津貫町1556 東京造形大学内 前田朗

Eメール:maeda@zokei.ac.jp

Saturday, November 07, 2009

ぐろ~ばる・みゅ~ぢっく(10)て・これろ・まおり



TE KORERO MAORIは、クック諸島のマオリ族の伝統音楽です。



Cultural Arts Theatre Dance Group, Te Korero Maori.



録音はラロトンガのラロ・レコード・スタジオ。伝統音楽のリズミカルな太鼓と歌です。



局は16曲ですが、意味はわかりません。例えば



AVAIKI


ORO IA RA


PUPU TE UMU PU



など。



**



同様にDVDも入手しました。こちらは、



The Ministry of Cultural Development, Te Mire Kapa 2007



というもので、2007年の政府主催ダンス大会の記録です。毎年4月に、クック諸島のダンサー(チーム)が集まってダンス大会が開催されます。もちろん競技大会で、順位がつき、賞金も出るようです。ニュージーランド航空、ラロトンガ航空、カフェ・サルサ、クック諸島製鉄など12企業の協賛です。南太平洋の伝統芸能は非常に面白く、学生に見せると大好評です。

Wednesday, November 04, 2009

9条を生きる(1)

*「マスコミ市民」489号(2009年10月)より

9条を世界へ未来へ  木瀬慶子

 木瀬慶子は、9条連事務局員として活動している。

 「9条連事務局の役割は、全国の運動をつなげていくことだと思っています。各地に9条擁護や9条を広げるためのいろんな取組みがあります。それぞれの発案、企画で集会もやりますし、本やブックレットも出します。各地の状況に応じてさまざまな取組みが続いています。私たちはそうした情報を受け取って、それを流していくことで、あっちにはこんな人たちがいる、こっちではこういう取組みの工夫があるということを、みんなで共有していくことができます」。

 9条を守り広める運動といっても、講演会を開いたり、ニュースを発行したり、映画上映をしたり、平和コンサートを開いたり、いろんな企画がある。しかし、ひととおりやってしまうと、次に何をしたらいいのかと悩むことも少なくない。ゲスト講師の話を聞けば勉強にはなるが、その先の一歩はなかなか踏み出せない。各地で署名運動に取り組んでいるが、集めた署名を行政側はろくに見てくれない。受け止めようとしない。それでは護憲運動は何をすればいいのか。

「グッズの販売でも9条の歌でも、それぞれの工夫があり、みんなで共有していくことで、9条の運動が市民運動に根付いていきます。講演会も署名も大切ですが、9条を守るためには、守る運動をしても難しい気がします。守るためにも、みんなで知恵を出し、工夫して、一歩前に出る運動を強めていきたいです。同じ思いの人との協働が中心ですが、むしろこれまで一緒にできなかった人たちや、以前は知らん顔をしていたような人たちとも意見交換しながら、運動を定着させ、発展させたいですね」。

 9条連準備に加わった木瀬の問題意識は、「9条を守る」「戦争反対」の思いを的確に表現できる言葉はないだろうかであった。庄幸四郎、チャールズ・オーバービー、勝守寛といった人々と出会うことによって、同じ問題意識で取り組んでいる人が意外に多いことを知った。

「9条を守る」ことは大切だ。でも「9条を守る」だけでは、日本政府の戦争政策に対抗できないのではないか。運動の志向をもっと的確に表現できる言葉はないか。たどり着いたのが「9条を世界へ未来へ」だった。アメリカ人のオーバービーが「9条を地球憲法に」と提唱しているのと同様に、9条連は「9条を世界へ」広める運動をひとつの柱にしてきた。世界社会フォーラムへの参加もその一環だ。

「二〇〇四年一月にインドのムンバイで世界社会フォーラムが開催されたので、9条連として参加して、ワークショップを開催しました。世界社会フォーラムは初めてでしたので、いったい何ができるのかと不安もありましたが、世界の人々に9条の意義を訴えました。9条の世界観は、初めての人にもすぐに伝わるのです。斬新で、しかも深いところで世界の平和思想とつながっているからです。二〇〇五年一月には、ブラジルのポルト・アレグレで開催された世界社会フォーラムに再び参加して、ワークショップを開催しました。さらに二〇〇六年六月にはカナダのバンクーバーで開催された世界平和フォーラムに参加して、ワークショップを開きました。9条の意義は着実に世界に伝わっています」。

韓国の平和運動との交流も重要な取組みになっている。二〇〇六年四月、済州島ピースツアーに出かけた。済州島は、一九四八年四月に民衆虐殺が行われた。四・三事件と呼ばれる。二〇〇八年四月には、その六〇周年記念慰霊祭がとりおこなわれたので、9条連として参加した。それに先立って、三月には、ソウルで水曜デモに参加した。水曜デモとは、日本軍性奴隷制の被害者である元「慰安婦」たちが毎週水曜日にソウルの日本大使館前で要請行動を行ってきたものだ。五月にもソウルに出かけ、水曜デモの主管を担当した。

「二〇〇七年に韓国で9条の会が結成されました。その時に韓国挺身隊問題対策協議会と出会いました。戦争の暴力被害を受けた女性たちのための歴史博物館がつくられていました。憲法月間に水曜デモが行われたので参加したのです。二〇〇九年五月にも水曜デモの主管になりました。ですから、水曜デモの精神を日本に持ち帰って、各地の自治体決議運動にも加わりました」。

自治体決議運動とは、日本軍性奴隷制(慰安婦)問題の解決を日本政府に求める勧告を自治体決議として実現しようという運動である。これまでに宝塚市、清瀬市、札幌市、福岡市、箕面市、三鷹市、小金井市などの議会が決議を可決している。

慰安婦問題の勧告は、これまで国連人権委員会、人権小委員会、国際労働機関によって出されてきた。さらに近年は、アメリカ議会、カナダ議会、オランダ議会、EU議会なども相次いで決議を出している。国際機関と、各国議会の決議を受けて、日本の民衆も、自治体決議運動を展開しているのだ。9条連も地域での運動に取組み、ネットワークづくりをすすめている。